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白洲正子全集 第二巻

白洲正子/著

6,270円(税込)

発売日:2001/07/10

  • 書籍

日本文化の美しさを教えてくれた“語り部”の全貌を明らかにする、初の全集。

お能への真情を綴った入門書の名作「お能の見方」、そのあだ名の面目躍如の痛快エッセイ集「韋駄天夫人」、珍しい一種の実用書「きもの美――選ぶ眼・着る心」など、バラエティに富んだ、直截で若々しい著作の数々。

目次
お能の見方
まえがき
仮面について
お能の見方
舞台について/翁について/ワキについて/脇能について/修羅能について/三番目について/物狂について/切能について
おわりに
韋駄天夫人
木まもり
人間の季節
旅情
ゴルフの魅力
浮気について
男らしさについて
私の胃潰瘍
投書夫人と恐妻男
生活館
童心/生の道/実行の世界/親ごころ/雪国の旅/福笑い/リンゴの並木/人は鏡/男女同権/マナスルに立つ/エヴェレストの映画を見て/感想/志野の香炉/信濃路
小林秀雄氏
会えずに帰る記
梅若父子
関寺小町
黒川能
「日本の能」
画家のデザイン
『おはん』を読んで
『坐り心地の悪い椅子』を読んで
わが青春のザンゲ録
韋駄天夫人
きもの美――選ぶ眼・着る心
きものが好きになるまで
きものが好きになるまで/“こうげい”の店
伝統のきもの(1)織物
絹について/紬について/木綿について/絣について/麻について
伝統のきもの(2)染めもの
染め/友禅/その他の染めもの/藍について
きものを選ぶ眼
きものの変遷/着る心
どこで何を着ればよいか
どこで何を着ればよいか/お茶ときもの/旅のきもの/ゆかた
きものの付属品
じゅばん/はきもの/アクセサリー
エッセイ 一九五六―一九六二
能面の図録
スポーツについて
小春日和
洗練し尽された芸
映画評
残花
残花 その二
残花 その三
ユーモアについて
虚実のあいだ
銀座に生き銀座に死す
混血児の美
らいぶらりー
父のこと、エチケットのこと
幸福について
モードと女性
風信
悪路
二つの耳
小泉信三氏への手紙
面をたずねて
薬の水
女優
あるゲイ・ボーイの話
美男論
石筆
わが人生の忘れ得ぬ言葉
スポーツ論壇
能面の表情
イラン風景
東欧に旅して
東欧の旅から
果物の味
ドガの展覧会
現代人の及ばぬ自由さ
FOUR ROOMS
思うこと 拾遺
伎楽面・舞楽面
きもの美
暮しの中の美
仏になって描いた絵
ガラスの魅力
日本のきれ
大名と能
ゴルフの装い
大人と子供
奥様のきものについて
雨の高山寺
解説・解題

書誌情報

読み仮名 シラスマサコゼンシュウ02
シリーズ名 全集・著作集
全集双書名 白洲正子全集
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 660ページ
ISBN 978-4-10-646602-1
C-CODE 0395
ジャンル 全集・選書
定価 6,270円

書評

波 2002年11月号より 「白洲正子全集」の魅力  「白洲正子全集」

青柳恵介

個人全集を読む楽しみは、その代表的な述作に混じった小篇を読み、この人はこんなことも考えたり感じていたのかと、些細かもしれないけれども思わぬ発見をするところにある。
たとえば「白洲正子全集」第十四巻には文字通り「ささやかな発見」という短いエッセイがあり、そこにこんな話が書かれている。十歳の頃、学習院の遠足でお浜離宮に出かけ、少女正子は沖行く蒸気船を眺め「お前はえらいよ、西郷さんだよ、蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌ったという。そんなことはすっかり忘れていたが、それから七十年以上が経って白洲正子は友人に、「わたしはその歌に一生救われたのよ。それだけに頼って生きてこられたの」と言われてキョトンとする。友人は、わがままな亭主の勝手なふるまいに接する度に「お前はえらいよ、西郷さんだよ」と歌って気を紛らかしていたらしい。八十六歳の白洲正子は「考えてみればとるにもたらぬ話だが、案外とるにもたらぬささやかなものの中に人生にとって大事なことがかくされている場合は多い」と書いている。
もちろん、こんな話は『白洲正子自伝』には出て来ない。子供の頃の思い出と言えば、無口で不機嫌で自閉症に近かったと『自伝』には記している。しかし、一方では大きな声で「蒸気ははしるよ、オナラは臭いよ」と歌って友達を笑わせる、何か彼女の生涯を貫いて発散した天衣無縫の明るさのようなものが感じられるだろう。彼女自身が気づいていない己の気質を「ささやかな発見」と呼んでいるように思われる。長生きをした人の全集ならでは味わえぬ読書の醍醐味である。
全集は歌で言えば私家集に相当する。一首の名歌が生れるまでに、いかに沢山の類歌がよまれ、モチーフを温める過程を必要としたか、それは私家集を読む者の共通した感慨であろう。全集も同じだ。
「白洲正子全集」には何度も繰り返し語られる話題がいくつもある。小学校に上る前、母親と共に維新前に大久保利通が逼塞していた京都の暗い家で暮したこと、結婚してまだ間もない頃に初めて大和の聖林寺を訪れ、そこで眺めた十一面観音のこと、苦労して手に入れた高価な紅志野の香炉を手放したときのこと、青山二郎と初めて出会ったときのこと、並べられた盃の値をつけてみろと小林秀雄に迫られたときのこと、そして西国巡礼の経験。あげて行けばまだまだあるが、それらの経験を、一つの器物をあちらから眺め、こちらから眺め、そして光の強弱を調整して眺めるが如く、白洲正子は繰り返し語っている。
一人の人間が一つのモチーフを生涯の中でどのように温めるか、言わばそれこそが作家の秘密であろう。その秘密に接近しようとすれば、全集を読むことから始める以外に道はない。

(あおやぎ・けいすけ 白洲正子全集編集委員)

▼「白洲正子全集」全十四巻/別巻一は、発売中

著者プロフィール

白洲正子

シラス・マサコ

(1910-1998)1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。

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