断筆解除後の戦果を報告する わははははははははははははははは。 笑犬樓、息を吹き返して狂犬樓となり、逆襲モードで連載を再開します。 まず「噂の真相」愛読者諸氏にご報告しておかねばならないのは、断筆解除後の戦果であろう。マスコミの自主規制に抗議して断筆し、その自主規制を撤廃するという覚書を新潮社、文藝春秋、角川書店という文芸出版の大手三社からとりつけて平成八年十二月に執筆を再開したことはご承知の通り。新潮社は「新潮」「小説新潮」などの雑誌に短篇を掲載、単行本『邪眼鳥』『敵』を刊行した。文藝春秋は「文學界」「別冊文藝春秋」「オール讀物」などの雑誌に短篇を掲載した。角川はいずれ発刊の新雑誌に短篇を執筆する予定である。その後、平成九年九月までには、中央公論社、徳間書店、東急文化村、角川春樹事務所、噂の真相(ここじゃ、ここじゃ)の五社と覚書を交した。 例の『風流夢譚』事件以来、右翼その他の団体に対しては弱腰の筈だからと半ば諦めていた中央公論社が覚書の申し入れをしてきたのは、故・嶋中鵬二会長の決断によるものである。入院中だった嶋中社長は病床でずっとおれのことを気にしていて下さったらしい。 「筒井と覚書を交わすように」と命じられた数週間後に亡くなられたのである。 徳間書店とは、覚書を取交してすぐジョン・ホーガン『科学の終焉』の監修を引き受けた。序文を書くため量子力学などの難解な内容をなんとか読み終えたものの、監修者としては正しい邦訳書名を二冊指摘しただけの甚だ頼りないことしかできなかった。そのため「読売新聞」の書評欄では「それにしても監修っていったい何だろう」などと厭味を書かれてしまったが、実はおれもそう思っているのである。監修って何だろう。 ところがこの本が、この手の本としては爆発的に売れた。おれは最初、どうせ売れまいと思っていたので印税ではなく監修料として十万円ほど欲しいなあと思っていたのだが、いやあ編集者・溝口立太の言うことを聞いてよかった。なんと現在二百万円以上の印税収入となっているのだ。溝口君は「監修して戴いたお陰です」と言うが、これはそうではあるまい。あくまで原著のよさと竹内薫の名訳によるものである。 東急文化村は言うまでもなくドゥ マゴ文学賞の勧進元である。おれが唯一人の選考委員となり、町田康『くっすん大黒』に賞をあたえた。覚書は選評などの執筆のためである。 角川春樹事務所は『時をかける少女』映画化に際して、覚書の取交しを春樹氏の方から申し出てくれた。 噂の真相との覚書取交しは、本誌に『笑犬樓よりの眺望』の続編を書くよう岡留編集長に言われたためだが、何やかやで結局再開が今になってしまった。その言い訳をもう少し書くなら、断筆している間に出版状況が悪くなっていて、今や執筆活動だけでは今までの収入や作家としての体面を維持できなくなっていたのである。そこでホリプロの世話になり、タレント活動を始めたため、時間の余裕がなくなってしまった。いやあ申し訳ありませんでしたなあ。 昨年九月に新聞記事となったのはここまでである。ところがその後、本年五月までに、さらに岩波書店、小学館、講談社、劇書房、戎光祥出版株式会社の五社と覚書を取交すことができた。この件は先日新聞各社にFAXで知らせたのだが、もはやおれの戦果自慢に食傷したのか、どの新聞にも載らなかった。だからここで初めて公表することになる。 ただし岩波書店は、おれが編集委員をつとめる予定の『21世紀 文学の創造』への執筆に関してのみの覚書である。別の仕事が発生すればその都度新たに覚書を取交すのだそうであり、その意図は不明である。 小学館は新しく出た文芸誌への執筆のための覚書である。ところが取交したあと、何の依頼もない。どうなっておるのか。 講談社は『河合隼雄を読む』の原稿を執筆するためである。河合氏から「ぜひ筒井に」という強い要請があったためだという。ありがたいことだ。 劇書房はおれと白石加代子の二人芝居を企画制作してくれた会社だが、彼女の主演する「ミザリー」のプログラム用の執筆を依頼された機会に、今後も何かと執筆の必要があろうというので覚書を交した。 戎光祥出版という聞き慣れない出版社は、実は神事関係図書の出版社である。親友の生田神社宮司・加藤隆久が『神葬祭大事典』という大部の本を出したのでその推薦文を書くためだったが、二度とおつきあいはあるまいね。 この他にも、実は何社かと話しあいが進んでいる。主だった出版社とはだいたい覚書を取交したといってよいだろうが、問題なのは各新聞の文化部・学芸部、それに各新聞社系の雑誌である。あちらもおれの原稿を欲しがっているしおれだって書きたい時がある。内密に何度か善後策の打合せを重ねていて、文化部・学芸部・出版部独自での覚書取交しという話にもなっているし、各社のおれの担当者が横の連絡を取りあっていっせいに、という案も出ている。この件で協議に加わりたいと思われたおれの担当記者氏がおられたら、ご連絡戴きたいものだ。 以上、近況報告であるが、長期執筆中断のため、ご報告したいこと、言いたいことが溜っている。次号以降もご愛読を乞いたい。 (一九九八・八)
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