恋愛脳
―男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか―



   序――男女関係学のススメ

 あなたが女性なら、「まったく、男って、どうしてこんなに鈍感で、おばかさんなの!?」と地団太を踏んだことがあると思う。
 あなたが男性なら、「女って、何で、こんなことに感情的になるんだろう?」と不思議に思うことがあったはずだ。
 
 男と女の脳は、構造が違っている。このため、ものの見方も感じ方もずいぶん違う。そのせいで、相手に良かれと思ってしたことの多くは裏目に出ているし、男の誠意が女を傷つけたり、女の親切が男をうんざりさせたり、なんてことは日常茶飯事。笑えるくらいにすれ違っている。
 なのに、私たち人間には、動物界最大の言語能力があって、共通のことばをしゃべるため、男と女がなんとなく同じようにものを見て、同じように感じているかのように錯覚してしまうのである。
 
 たとえば、「愛している」と言ったとき、男の脳は、「とりあえず繰り返し君のところに帰る(来る)」という約束をしたに過ぎない。女の脳は、24時間、どの瞬間にも自分を最優先してくれる一生分の約束を手に入れたと信じている。もちろん、自分が「愛している」と言えばそうするからである。
 女は、たとえ社会的地位が高く、たいへんな責任を全うしているキャリアウーマンであっても、恋人や子どもが意識の片隅から消えることはない。仕事への集中力がふと解けた瞬間に、恋人や子どもがどうしているかと案じ、「最優先じゃなくてごめんね」とあやまりながら生きている。意識のある間は、ほぼずっとである。
 だから女たちには、男の「仕事の最中は、恋人や家族のことは思い出さなくても当たり前」という論理は到底理解できない。
 このため、男が、女を思い出しもせず(連絡もせず)、当然のように仕事や公的な人間関係を優先することにひどく傷つく。傷つきすぎて、普通はなじることさえ出来ないくらいだ。
 我慢に我慢を重ね、あげく、やっとのことで「ひどすぎる。仕事と私とどっちが大事なの?」などと控えめに訴えるのだが、男たちにはこの言われ方、まったくもってぴんとこないのである。経験の浅い男なんか、「おまえ、ばかじゃないのか」みたいに相手にもしない。女は裏切られたと泣き、男は唖然とする。同じような事態が積み重なれば、女は情緒不安定になり、男は憮然とすることになる。
 やがて、女が健気な決心をして男を捨てるか、男が面倒くさくなって引きまくり、しかたなく女が健気な決心をすることになるか……いずれにしても、傷つくのは、「愛している」を深読みした女のほうである。
 
 男は、正直、ひどい目にあったと思っている。ただ、加害者だったらしいとはうすうす感づいているらしく、かわいそうなことをしたなと、ちょっとは思うらしい。で、「おまえには、おまえらしく生きてほしい。だけど、オレには、そうしてやれなかった。それが悲しい」とか、「次の恋では世界一幸せになってくれよ」とか、女からしたら「だったら、おまえが幸せにしろよ!」と怒鳴ってやりたくなるような、不毛な謝罪を平気で言うのである。まったく、男ときたら、ほんとうに腹が立つ!
 
 でもね、男たちは、自分の何が間違っていたのかわからないのである。だって、「繰り返し君のところに帰る(来る)」と約束して、それを守って暮らしてきたんだものね。
 小学生は、小学校へ何の疑いもなく通う。「将来のために必要だ」とか「好きだから」とかいちいち考えない。男の愛は、これに似ている。
 小学校のほうも、小学生を裏切らない。どんな小学生でも「きみは、どうも小学校を好きじゃないようなので、今日の給食、きみの分はありません」とは言われない。毎日通えば、毎日教室に席があって、美味しい給食が食べられる。男が想像する女の愛も、そういうものである。
 ところが、女という「小学校」は、男の気持ちを勝手に探る。男たちは思いもよらないことで「誠意がない」と判断されて、席が教室の外にあったり、ひどいときはなかったりするわけだ。女という「小学校」はあんまりである。
 
 こうして、互いの立場を考えると、どっちもかわいそうでしょう? ひどい側なんて、ないのである。けれど、たいていの男(女)は、「この女(男)がひどかったのだ」と思うだけだ。だから、どちらも、また恋をする。
 つまり、男女脳のすれ違いと錯覚が、すべてのロマンスの引き金となっている。男と女には、時空を超えて、すべてを理解しあったかのように思えた晩があったかと思えば、永遠にすれ違ったかのように見える朝もある。でもまぁ、人生は長いので、このすれ違いと錯覚を、運命の恋と呼んで、泣いたり笑ったりするのも悪くないと思うけどね。
 
 けれど、男心と女心の違いを理解したら、かなり人生は楽になる。恋の達人になれる。長年、腐れ縁だと思っていた妻や夫がいとおしく思えてくる。息子や娘の気持ちが読める。職場の若い人たちのモチベーションを上げられる。市場の気持ちも見えてくる。
 この世には、男と女がいて、人生の心地よさの多くを、この関係が創り上げているのである。男女の違いを見つめる男女関係学。ぜひ、人類の必須科目にしてもらいたい。



目次

 序――男女関係学のススメ
女の気持ち
男の気持ち
オトナの女の必需品
ロマンスの作り方
大切にされる女の条件
魔法の鏡
この世の始まりの魔法
少女脳の憂い、少年脳の悲しみ
オトナ脳の愉楽
女心の秘密
美人の秘訣
会議は踊る
ヒロインの作り方
オトナの女の必需品2
甘い生活
千年愛
ほんとうの恋愛論
満ちてゆく時間
 結 び
 
解説「男子の本懐」  横内謙介

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