ついてない日々の面白み
―yoshimotobanana.com9―



2005年4月1日

 ある日、ヒロチンコのパパから「まんが日本昔ばなし」の全巻ビデオが送られてきた。私の正直な感想は「DVDじゃないなんて!」だった。
 しかし! おじいちゃんの思いは実った。チビラくんは毎日毎日ビデオを持ってきては、内容はどうでもいい、オープニングの歌を見せろ、とせまるのである。そして、何回でも観る。私がしていたドラゴンのネックレスが「ドラゴン」だということを覚えている彼は、あの、雷のぼうや(世代がわかるよ、これで一発で浮かぶ人は)が乗っている龍が好きで好きでしかたなく「ゴンあ~ん、ねんね~」と歌詞を歌いながらほんとうに何十回でも観るのだ……子供がこういうものだというのは経験していた。しかし、まさか、この曲で来るとは! 予想がつかなかった。私が小学校くらいのときの土曜日の夕方にこの番組を気だるく観ていたとき、この未来を教えられても「ありえない!」と言っただろう……。おかげで二番までばっちりと歌えるようになりました。か~さ~じぞう~。


4月2日

「サングラスとマスクの私はあやしいよ」というミカちゃんの言葉に「あんな美人ちゃんが、なにをしてもそれほどではないだろう」と思って会いに行ったら、ほんとうにハンパじゃないあやしさだった。顔の形がいいのと頭が小さいのが災いしてマスクが奇妙にフィットし、「ザ・マスク人間」という感じだった。
 でも先輩とミカちゃんの言っていることはいつもどおりに冴えていて、ふたりとお茶をしているとみんなギリシャ人でオリーブの木陰で夜通し議論しているような錯覚を覚える。
 ヤマニシくんがロンドンに行ったときの写真も見せてもらったが、自分で自分を撮ったヤマニシくんがものすごくいい顔をしていて、ひとり旅の感情がみんなよみがえってきた。


4月3日

 歌子さんが残りのリーディングをしに寄ってくれた。でもほとんどの時間、なつきになついて寝ようとしないチビラくんと遊ばさせられていた。不思議に全ての人をひきつける女、歌子……。
 いっしょに麻料理屋に行って、ヘルシーな晩ご飯を食べた。メニューは全て麻。お茶もコーヒーも麻。説明する人もたいへんそうだ。
ヒロチンコ「この人たちは一日に何回麻という言葉を言うのだろう……」
 天井も麻、テーブルも麻でできていた。そして壁には思いっきり麻の畑の絵が緑色で描いてある。
歌子さん「竹林かと思いきや……!」
 その発言が、すごくおかしかった。
 でもお料理はていねいでおいしく、お店の人たちもすごくいい感じだし、前に読んだオーナーの本も大好きだったので、幸せだった。麻ばんざい!


4月4日

ヒロチンコ「なんだかお肌がすべすべしているよ」
 おそるべし、麻の力……。
 目のまわりはあいかわらずかさぶた、鼻のまわりは真っ赤……こんなことで撮影に行っていいのかな? と思いながら出かけたら、インタビューは太田さんだし、カメラマンはとても真摯な松木くんだし、ヘアメイクの方はてるこの知り合いで歌子さんとも知り合いという、とてもスピリチュアルで人数も少ないいい撮影だった。ほんとうにうまいヘアメイクの人は、順番をすっとばしても目的の場所に行ける。長年いろいろな人にやってもらっているので、わかるようになった。最終目的のイメージをすっとつかむことができるかどうか、それはアートディレクションの才能と言えよう。材料が私で申し訳ないが……。


4月5日

 猫は広げてあるパワーブックの上を普通に通るし、チビは「ママ、アップル、あった~!」と言いながらキーボードを押したりフラッシュメモリーをねじまげたりしている中、鼻水をたらしながらなんとかして小説を完成させた。この環境の中でできたこと自体がまず奇跡だと思う……。内容はかわりばえもなく「またこういう話?」という話なんだけれど、本人的には多少違っている。というか、このところ書き残したことの集大成という感じだ。若者の気持ちがなかなか思い出せず、とても苦労した。「ハネムーン」プラス「ハゴロモ」割る2って感じ。


4月6日

 かぜひきのえりちゃんの家に行く。そしていろいろしゃべる。ヒーリングもしてもらう。背中が痛いのが治った。
 そして、しゃべっているうちにものすごい希望がわいてきた。わいてきた希望の量によって、自分のほんとうの望みがわかることってある。今日のはそれだった。自分が消えてしまうほどの嬉しさだった。それで自分でも驚いた。
 それから知人の再就職に関してとてもいい知らせがあったので、うまくいくようにと願をかけて、わけあってしばらくしていなかった一番好きな時計を一ヶ月間身につけることにする。アンティークで持っているのに現行版も持っている、エクスプローラーの便利じゃないほう。便利な方は外国で時差がわかるのでほしかったんだけど、ついデザインが好きでまたⅠのほうを買った。やはり好きなので見るといつも嬉しい。
 夜、陽子ちゃんが帰ってしまったら、チビラくんが淋しくて遊びも手につかず、おしりを高くしておいおい泣いたので、きゅんとなった。


4月7日

 ヤマニシくんにむりやり貸してまですすめた「CODE46」。ヤマニシくんが気に入ってくれたので、ほっとした。あとになればなるほどいい映画だった。というか、私の好きなタイプの映画だ。おじさん(含む監督)がサマンサ・モートンいいな、いいよな~、いじめたい! どこまでもひどい目にあってもけなげでいてほしいよな~と思ったというだけの動機で、よくあれだけの映画が撮れたなあ。それは主人公のキャラクター作りがあまりにもすばらしかったからだろう。久しぶりに脚本から人が生きて立ち上がってくるのを見た。
 吾妻ひでお先生のものすごい新作「失踪日記」も読む。絵がかわいいので壮絶さもひとしお。私は高校のときほんとうのアズマニアだったので、感慨深し。つい「やけくそ天使」を読み返してしまった。ほんとうにやけくそな作品であった。


4月8日

 河瀬直美さんとお会いする。とても初めて会ったとは思えない。チビがいるし、奈良の人だし……(?)。
 きっと、全く私と違う濃い感情世界を生きている人なのだろう、と前から思っていたが、その、違うところがいやではなくて好きという感じだ。才能に対する敬意だろう。
 石原さんがあまりにも龍先生の「半島を出よ」に出ている……気がする……ので、久しぶりに会ったのについさっきまでいっしょにいたような、妙な感じだった。スターだなあ!
 近所にとてもナイスな喫茶店ができて、二日続けて行ってしまった。やってる人の人相がとても好き。やはり下北に越してきてよかったと心から思う。喫茶店(カフェとは微妙に違うかも)命のこの人生、しかし、土日は観光地と化すのでどこも満席! 家にいるしかないという新たな悩みが!


4月9日

 ダライ・ラマ法王の講演に行った。力の入った、すばらしい箇所がたくさんあるいい講演だった。講演がライブのものであるということは、忘れがちだが大事なことだ。
 講演が始まる前に撮影可の時間がちょっとだけあったのだが、そこでひとりだけラフな服装をして真剣にデジカメで写真を撮っている取材中の澤くんを発見。警備員にただの人と思われ、プレス章を確認されていた……。撮影終了の指示があったとき、他の人はだらだらと片づけたり、少しでも多く撮ろうとしてねばったりしていたのだが、澤くんはさっと、法王におしりを向けないようにして指示と同時に切り上げた。そのシャープな動きと品のよさに胸がきゅんとなって、何度目かに澤くんに恋しそうになった。しかし隣を見たらヒロチンコも胸きゅんになっていた……。