ダーク・タワーVI―スザンナの歌―〔下〕



   XVIII

 最初のリムジンの運転席には、だれもいなかった。二番目の運転席には、帽子をかぶった制服姿の男がいたが、キャラハン神父の見るところ、居眠りをしているようだった。三番目のリムジンには、同じ帽子と制服の男がリムジンの歩道側に身をあずけていた。かれの口の端から突き出たタバコの火がゆったりと弧を描き、そしてまたまっすぐ下を向いた。かれはジェイクたちのほうに顔を向けたが、何か気になって興味を示したようではなかった。何が気になるというのだ? 初老の男と思春期に入りかけた少年、そしてあとからチョコチョコついてくる犬。別にどうということはない。
 六十一番通りの反対側に差しかかったとき、キャラハンは、レストランの前にあるクロムのスタンドの掲示を見た。

  本日はプライヴェートな祝賀会のため臨時休業いたします。

 今晩の〈ディキシー・ピッグ〉で行なわれるプライヴェートな祝賀会とはいったいなんだろう? キャラハンは考えた。赤ん坊が生まれる前に開かれる祝賀会ベイビー・シャワーか? 誕生パーティか?
「オイはどうする?」キャラハンはジェイクに声を低めてきいた。
「ぼくと一緒さ」
 たったそれだけの言葉だったが、キャラハンは、ジェイクの考えていることが十分理解できた。今晩、オイも死ぬのだ。自分たちは勝利の炎に包まれて逝くのかどうかはわからないが、三つの命はともにこの世から去ることになる。道の終わりにある開拓地は、すぐそこの角を曲がれば見えてくる。二人と一匹は並んでそこへ行くのだ。肺がきれいで、目もまだはっきり見えるいま、死にたくないのは当然だが、もっとひどい死に方もありえる。いまや、〈十三番目の黒球〉は眠りにつける場所にしまいこまれた。このごたごたが終わり、戦いに勝つか負けるかしたあと、ローランドがまだたたずんでいれば、かれが〈十三番目の黒球〉を探し出し、しかるべき方法で廃棄してくれるだろう。そのあいだ――
「ジェイク、ちょっと聞いてくれ。大事なことだ」
 ジェイクはうなずいたものの、苛立っているようだった。
「死の危険があることを理解しているか? そして自分の罪への許しを請うか?」
 少年は臨終の秘跡を受けていることを理解した。
「はい」ジェイクは言った。
「心の底からそれらの罪を遺憾に思うか?」
「はい」
「悔悛するか?」
「はい、神父さま」
 キャラハンはジェイクに十字を切った。
「父と子と精霊の御名において――」
 オイが吠えた。たった一度だが、興奮していた。少々くぐもっている。溝になにかを見つけて、それを口にくわえてジェイクに差し出していたからだ。少年は身をかがめて、手に取った。
「なんだ?」キャラハンは言った。「なんだそれは?」
「スザンナがぼくたちに置いていったものだよ」ジェイクは、とても安堵しているようだった。望みを取り戻したようでさえあった。「マイアが気を取られて歌で泣いているあいだに、スザンナがわざと落としたんだね。ああ――チャンスがあるかもしれない、神父さん。ぼくたちには、まだチャンスがあるかもしれない」
 ジェイクは神父の手に問題のものを落とした。キャラハンはその重さに驚いた。同時に、美しさに息をのんだ。そして希望の訪れまで感じた。バカげているような気がしたが、それはそこにあった。
 そのカメの細工を顔の前に持ってくると、キャラハンは人差し指の腹を甲羅のクエスチョンマークのような瑕に走らせた。そして、賢く平穏に満ちた目を覗き込んだ。
「何て美しい」キャラハンはそっと言った。「これが〈亀〉のマチューリンか? そうだ、そうなんだろ?」
「ぼくにはわからないけど」ジェイクは言った。「たぶん、そうだね。スザンナはそれをショルードパダーって呼んでる。ぼくたちを助けてくれるかもしれないけど、あそこで待ち受けている悪党たちを倒してくれるわけじゃない」かれは、〈ディキシー・ピッグ〉のほうに顎をしゃくった。「殺しはぼくたちの担当なんだよ。神父さん、できる?」
「ああ、もちろんだ」キャラハンは静かに言った。そしてカメを、ショルードパダーを、胸のポケットに入れた。「弾丸がなくなるまで、あるいは、自分が死ぬまで、銃を撃つ。殺される前に弾丸がなくなったら、銃把でやつらを殴る」
「よし。じゃあ、やつらに臨終の秘跡を与えてやろう」
 かれらは、“休業”の掲示が出ているクロムのポストを通り過ぎた。オイは歯をニカッとむき出して笑いながら、頭を上げて二人のあいだをチョコチョコと歩いている。ジェイクとキャラハンはためらうことなく、両開きドアの前の三段ステップを上った。一番上のステップで、ジェイクは袋に手を伸ばし、皿を二枚取り出した。そして二枚を打ち合わせ、カチンという鈍い反響にうなずくと、こう言った。
「神父さんのを見せて」
 キャラハンはルガーを持ち上げ、決闘者のように銃身を右頬に寄せた。そして、弾丸でふくらみ、たわんだ胸のポケットを触った。
 ジェイクは満足げにうなずいた。
「中に入ったら、一緒にいてよ。ずっとそばにね。オイをまんなかにして、横一列に進もう。ワン、ツー、スリーで突入する。始まったら、死ぬまでやめない」
「決してやめない」
「そうだよ。準備はいい?」
「ああ。神の愛がきみとともにあるように」
「そして神父さんにも。ワン……ツー……スリー」ジェイクがドアを開け、かれらはともに薄暗い明かりと甘くピリッとするローストポークの香りのなかに踏み込んだ。

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