ダーク・タワーVII―暗黒の塔〔上〕―



これまでのあらすじ

 本書『暗黒の塔』は、十九世紀英国の詩人ロバート・ブラウニングの叙事詩『童子ローランド、暗黒の塔に至る』に触発された全VII部の長大な物語〈ダーク・タワー〉の最終部にあたる。
 第I部『ガンスリンガー』では、ギリアドのローランド・デスチェインが長年の追跡の果てに黒衣の男ウォルターと対決するまでが語られている。黒衣の男は、ローランドの父親(アーサー・エルド王の血を引く〈最後の光の王〉である)の友人を装いながら、ギリアドの崩壊を手引きした裏切り者であり、諸悪の根源にして闇の源たる謎の〈深紅の王(クリムゾン・キング)〉の家臣のひとりである。
 魔道師ウォルターに復讐することがローランドの最終目的ではない。ウォルターと対決することは、〈暗黒の塔〉へ至る道の一歩にすぎない。ローランドは最後のガンスリンガーである。いわば、騎士や保安官であり、世界の平安と秩序を守る存在である。だが、いまや世界は変転し、いたるところで崩壊と混沌が浸透しつつある。原因は〈暗黒の塔〉にある。すべてが謎に包まれ、どこにあるかも知られていない〈暗黒の塔〉を発見し、それを支えている〈ビーム〉の消滅を阻止、もしくは再生させることが、ガンスリンガーとしてのローランドの使命であり強迫観念であり、そして存在理由でもある。
 では、ローランドが探索の旅を続ける破滅寸前の世界とは? それは異次元世界だが、われわれの現実世界と無縁ではない。というのも、ガソリン・ポンプのような文明装置が散見され、『ヘイ・ジュード』のような歌が残っているからだ。また、その風景は荒廃しているものの、アメリカ西部開拓時代と奇妙な相似形をなす。
 いや、それだけではない。ガンスリンガーの異世界とわれわれの世界とは、特定の場所やドア、あるいは幻覚状態や死によって往来さえできる。たとえば、広大な砂漠に取り残された太古の駅馬車用の中間駅(ウェイ・ステーション)で、ローランドはわれわれの世界のジェイク・チェンバーズと出会う。その少年は、一九七七年のニューヨークで車に轢かれて死亡したのち、異世界の中間駅で覚醒する。ローランドは、ジェイクを連れ立って黒衣の男を追跡するが、旅を続けるうち、しだいに少年のことを自分の心の息子と思うようになる。だが、ローランドは、〈暗黒の塔〉探索とジェイク少年のいずれを取るかの究極の選択を黒衣の男に迫られ、前者を選び、ジェイクが千尋の谷底に落下するにまかせる。ガンスリンガーに見殺しにされる寸前、ジェイクは別れの言葉を口にする。「じゃあ、行きなよ――ぼくはここで死んでも、また別の世界がいくらでもあるから」
 かくてローランドは、宿敵である黒衣の男ウォルターに追いつき対決する。
 (中略)
 第VI部『スザンナの歌』は、まさにそのスザンナを追って、ローランドたちがニューヨークへ旅立つ場面から幕を開ける。かれらは二手に分かれて探索をすることに決める。すなわち、ローランドとエディはスザンナを追って一九九九年のマンハッタンへ、かたやジェイクとキャラハン神父は薔薇の咲いている空き地を守るために、その土地の所有者であるカルヴィン・タワーを探して一九七七年のメイン州へ。
 かくてローランドとかれの〈カ・テット〉は、〈知られざる扉〉を抜けて異世界へ到着する。だが、〈カ〉の人知を超えた謀により、ローランドとエディは一九七七年のメイン州へ、ジェイクとキャラハン神父(そしてオイ)は一九九九年のマンハッタンへ飛ばされる。
 いっぽう、ローランドたちに救出されることを期待しているスザンナは、あらかじめ定められている出産場所〈ディキシー・ピッグ〉に向かうマイアの足を食い止めようと、さまざまな質問をして時間を稼ぐ。その結果、マイア誕生の秘密をはじめとして、数々の新事実が明らかとなるが、とりわけ、スザンナを驚愕させることがある。なんと、自分の腹に宿った赤ん坊の真の父親は、ローランドだったのだ! しかも伝説によれば、その子は父親を殺すために生まれてくるらしい……。
 メイン州では、ローランドとエディは待ち伏せしていたエンリコ・バラザーの手下たちの“手厚い歓迎”を受けるが、その銃撃戦のさなかにジョン・カラムという初老の男と知り合う。なんとか危機をくぐり抜けたかれらは、カラムの協力を得て、カルヴィン・タワーを見つけ出し、自分たちに問題の空き地の所有権を譲りわたすことに同意させる。そのあと、エディの考えで、かれらは新人作家スティーヴン・キングのもとを訪れ、恐れていた事実を知る。
 マンハッタンでは、ジェイクとキャラハン、そしてオイは、スザンナ=マイアを追跡して、〈ディキシー・ピッグ〉にやってくる。いまやその店では、スザンナ=マイアが妖魔の子=〈深紅の王〉の王位継承者=ローランドの息子である赤ん坊、モルドレッドを分娩しようとしている。
 本書『暗黒の塔』は、ジェイクとキャラハン、そしてオイが、決死のスザンナ救出に乗り出すところから語り起こされる。
訳者

購入