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こころの免疫学

藤田紘一郎/著

1,210円(税込)

発売日:2011/08/25

  • 書籍
  • 電子書籍あり

うつ病も、アレルギー性疾患も――すべてのカギは腸内細菌が握っていた!

「こころの病」は、脳だけでなく、食べ物や腸内細菌までも含めた、からだ全体の問題だった――。この十年で、精神疾患とアレルギー性疾患が二倍以上も増えた理由、脳と免疫系が密接に影響しあうメカニズム、セロトニンなど神経伝達物質生成における腸内細菌の重要な役割……「こころの免疫力」をつけるための革命的パラダイム。

目次
はじめに
第一章 「こころの病」は個性である
「爆発」を繰り返す人/見捨てられる不安とパニック障害/リジリエンスを引き出す/「降りてゆく生き方」/「爆発」と引きこもり/愛情でうつは治せるか/うつ病は薬では治せない/自殺の陰に過剰な投薬/深刻化する「こころの病」/うつ病患者はなぜ増えたのか/世界一清潔な国が作ったうつ病/こころの不調の多くは個性/「べてるの家」/こころの免疫力と認知行動療法
第二章 幸せは腸から
投薬やカウンセリング以外の治療法/腸は「第二の脳」/糞便の量が示す腸内細菌の減少/プレバイオティクスとは/腸内細菌のエサになる糖アルコール/日本人の食物繊維摂取量/「日本人がメキシコ人より死ぬ」理由/心理研究所で乳酸菌の研究/乳酸菌で豚がおとなしくなった/乳酸菌の効用/セロトニンの九五パーセントが腸で作られている/ストレスの腸内細菌叢への影響/HPA軸と腸内細菌/心地よさを記憶する物質/アレルギー性疾患の増加
第三章 こころの健康は食べ物から
「こころの病」を防いでいた日本の伝統食/砂糖がキレる若者を作る/糖質制限食で体もこころも快適に/脂肪もたんぱく質も脳のエネルギー/糖尿病とうつ病の関係/スローリリース食品/ナイアシンが幻覚や妄想を抑える/ストレス増大時の脳の栄養/コレステロールとうつ病の関係/油と脂肪/脳機能と不飽和脂肪酸/脳にダメージを与えるトランス脂肪酸/免疫の低下とトランス脂肪酸/フライドポテトが腐らない/「こころの病」は栄養で治せるか
第四章 共生する「こころの病」
正気と狂気の境界/バイオフィルム/共通言語で場をつくる/当事者の力に支えられる精神医療/こころがノーという時/リカバリーという考え方/精神病院を捨てたイタリア、捨てない日本/狂気とは何か/地域精神保健活動の充実/「富士モデル」/町が大きなホスピタル
第五章 精神神経免疫学とは何か
行動療法の基本概念は「免疫」/「ホメオスタシスの三角形」/精神免疫学から精神神経免疫学へ/免疫反応をコントロールするには/こころと体とを結ぶ腸/個体統御システム/脳と体は対話している/免疫系は脳にも情報を伝える/免疫系情報伝達物質もうつ病を誘導/ストレスによる内分泌細胞の反応/ストレスによる免疫低下/こころの動きと免疫反応/プラスのイメージでがんを抑える/西洋医学の限界と東洋医学
終章 リジリエンスで、「こころの病」から生還
悪循環から抜け出せない/「あるがまま」を引き出す/「認知のゆがみ」に気づく/リジリエンスを高める
おわりに

参考文献

書誌情報

読み仮名 ココロノメンエキガク
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-603684-2
C-CODE 0347
ジャンル 家庭医学・健康
定価 1,210円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2012/02/17

書評

やる気も幸福感も腸で作り出される

成毛眞

〈著名人が薦める〉新潮選書「私の一冊」(4)

 うつ病と双極性障害(躁うつ病)を含む、気分障害患者数がとめどもなく増加しつつある。厚労省の調べでは1996年に43万人あまりだったが、2008年には100万人を突破した。とりわけ30代のうつ病が増えてきているというのだ。
 団塊の世代と役割を交代するべき世代がダメージを受けている。会社組織だけでなく国家をも危うくする事態だといってもよいかもしれない。
 その問題に精神医学ではなく、寄生虫学や感染免疫学を専門とする医学者が答えたのが本書『こころの免疫学』である。目に見えない脳の中ではなく、目に見える腸の中に注目して、患者にとっても具体的な処方箋を出している。
 書評の掟を破って、いきなり結論のいくつかを紹介しよう。
「やる気」を出すための神経伝達物質ドーパミンも、幸せをかんじるために必要なセロトニンも、その前駆体のほとんどすべては腸で作り出されている。そして、腸内細菌がその前駆体を作り出すカギなのだ。ここでは腸内細菌を増やし活性化する食事法について細かく書かれている。
 著者はさらに糖尿病とうつ病との連関、コレステロールとうつ病との関係などにも触れ、糖尿病を劇的に改善する糖質制限食療法も自分で試してみている。わずか2週間で血糖値も中性脂肪もうつ気分も劇的に改善したという。
 じつは評者も2ヵ月前から糖質制限食に切り替えている。著者と同じく2週間で、体重が4キロほど落ちた。この制限食のよいところは、肉魚野菜をたらふく食べてもよく、赤ワインも焼酎も飲み放題だということだ。夕食は居酒屋のメニューのごとくなるのだが、すばらしく効果的だ。本書は最新の食に関する医学の知見を判りやすくとりあげていて過不足がない。
 社内食堂のメニューや会社の健康管理にこの知見を応用することで、気分障害に悩む社員を減らし、生活習慣病による生産性の低下も防ぐことができるかもしれない。会社の病を治すまえに、社員の病を治すのが経営の本質なのかもしれない。

(なるけ・まこと 書評サイト「HONZ」代表)
「週刊朝日」2011年9月30日号「ビジネス成毛塾」より

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[→]〈著名人が薦める〉新潮選書「私の一冊」一覧


脳と腸、どっちがエライか

椎名誠

 平成一〇年から一三年連続で年間三万人の自殺者をだしている日本は、先進国のなかでもっとも自殺者の多い国、という非常に重苦しい問題を抱えている。自殺の原因はいろいろあるが「うつ」によるものが多いという。国の調査では自殺者の半数近くが自殺する一年以内に精神科を訪れていた。
 これにからんでもうひとつショッキングなデータが提示されている。OECDのデータによると日本以外の先進国の精神病院のベッド数が劇的に減少している。少ない順からいくとオーストラリア、イタリア、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスで、これらの国は全部右下がりに減少の一途をたどっているが、唯一日本だけがほぼ横ばいである。これは日本が「世界一自殺者が多く、精神病患者が増え続けている国」という救いのない現実を示している。
 この本は、このようなデータを駆使し、日本の精神病治療に対する基本的な疑問からわかりやすい解説がなされていく。人間の「からだ」全体の様子を考えずに、一定箇所の治療にむけた投薬偏重におちいりやすい日本の西洋医学を主流にしたやりかたに、かねてからぼくも大きな疑問を抱いていたが、この本は、そのことの危険性を思いがけない視点から分析していき、いたるところで大きくうなずくことになる示唆と刺激に満ちている。
 スペースがあまりないので、そういう事項の一部を紹介すると、たとえば「脳と腸はどちらが偉いか」ということについて深く考えさせられる章がある。「どちらが偉いか」というのはぼくの勝手な解釈だが、ざっとこういうことである。
 わたしたちは飽食の時代に生きているから、おいしい、と思うものをいっぱい食べている。「あれ食べろ、これ食べろ」と脳が命じているからである。けれど脳はその食べ物が安全かどうか常に注意するということはしない。困るのはそれを消化吸収する腸である。腸にとっては苦手な保存料などのいっぱい入った食品添加物などよりもっと腸の健康のためにバランスのいい食物がほしい。しかし栄養価の偏った食べ物ばかりがやってくると腸内細菌のバランスが保てなくなり、人間の体で一番大切な(クスリより重要な)免疫力が落ちて病気になりやすくなる。
 腸にとってありがたい(腸内細菌の増える)食物繊維の摂取量は、日本は世界のなかでもかなり下位にある。ガンやアトピーなどのアレルギー疾患やうつなどの「こころの病」が増えてきたのは、日本人のこの腸内細菌の減少傾向が大きく関係しているのではないか、と、著者はいくつものデータ、事例をもとに説いていく。

(しいな・まこと 作家)
波 2011年9月号より

担当編集者のひとこと

「こころの免疫力」をつけるための革命的パラダイム。

 日本人の食物繊維の摂取量が減っていることをご存じでしょうか。1951年には1人当たり1日27グラムだったものが、1994年には16グラムになり、現在は12グラムになってしまいました。諸外国と比較しても、むしろ少ない国に属しています。
 その一方で、この10年間で2倍以上増えた病気があります。それは、アトピーや喘息などのアレルギー疾患と、うつなどの「こころの病」です。日本人の4人に1人が花粉症で悩んでいるといわれていますし、日本の自殺者数は1998年から13年連続して年間3万人を超え、うつ病の患者数は2008年に100万人を超えてしまいました。
 このふたつのデータで興味深いのは、食物繊維の摂取量の減少に反比例するように、アレルギー疾患と「こころの病」が増加しているということです。実は、そこには重大な因果関係がありました。
 現在、「こころの病」は脳の問題で、さまざまなストレスとの相互作用によって発症すると考えられています。しかしそれは、単に脳だけの問題ではなく、免疫系、つまり食べ物や腸内細菌までも含めた、体全体の問題だったのです。たとえば、うつ病は一般的に、脳内のセロトニンが不足すると発症するとされています。そこで、脳内にセロトニンが増加する薬が処方されることになるのですが、これはあくまでも対症療法です。どうしてセロトニンが減ってしまったのか。根本の問題が解決されなければ、病気を治すことはできません。
 最近の研究で、脳と免疫系が互いに情報をやりとりしていること、脳の機能も免疫系の影響を受けていることが明らかにされています。
 本書には、免疫系が「こころの状態」にどのように関わっているのか、どうすれば「こころの病」を回復させることができるのか、そして、こころを健康に保つために、私たちがすぐにやるべきことが記されています。ぜひご一読ください。

2011/08/25

著者プロフィール

藤田紘一郎

フジタ・コウイチロウ

1939年、中国・旧満州生まれ。東京医科歯科大学医学部卒、東京大学医学系大学院修了。医学博士。東京医科歯科大学名誉教授。人間総合科学大学人間科学部教授。NPO自然免疫健康研究会理事長。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。『原始人健康学』『水の健康学』『パラサイト式血液型診断』(新潮社)、『笑うカイチュウ』(講談社文庫)、『免疫力を高める快腸生活』(中経の文庫)、『アレルギーの9割は腸で治る!』(だいわ文庫)など著書多数。

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