ラジオ記者、走る



1 田中眞紀子代議士を口説き落とした日

 涙が出た眞紀子氏の参戦
「今日これから議員会館に来ていただけませんか」
 田中眞紀子代議士の事務所から「呼び出し」がかかったのは、二〇〇五年二月下旬のことだった。外務省の役人であれば震え上がるか憂鬱になるところであろうが、このときの私の気持ちは期待で一杯であった。当時、私は眞紀子氏にラジオ出演、それもワイド番組のレギュラー・コメンテーターを依頼するという大それた作戦を進めていた。呼び出しは、その作戦の新しい展開を意味していたからである。
 ラジオのワイド番組では、「顔」であるメインパーソナリティの人選同様、日替わりでスタジオに来るコメンテーターの顔触れも番組の行く末を大きく左右する。
 皆さんもテレビのワイド番組を見ていて、一人の人間がいくつもの局の番組を掛け持ちしていることに気付かれると思うが、政治、経済、社会、芸能、そしてスポーツと、どんな話題にも瞬時に反応し、まともなコメントを返せる人材は、探してみるとなかなかいないことが分かる。
 テレビなら、きちんと構成されたVTRを見て、ひと言ふた言、もっともらしい意見を言えば、持ち時間も少ないし、映像やフリップもあるので切り抜けられるが、たっぷり話す時間があり、手の込んだ演出がないラジオでは、コメンテーターの見識やトークの明瞭さ、そして人格まで問われてしまうのだ。知名度が高いだけでは通用しないのがラジオのコメンテーターだ。
 見識が浅い人は話をつなげない。違った見方を示せない。他のメディアで伝えられていないような内容まで言及できない。おまけに音声だけのメディアだと、表情が見えない分、話のトーンや組み立て方で、性格の良し悪しまで聴取者に分かってしまう。
 その点、日刊ゲンダイの二木啓孝さんやジャーナリストの大谷昭宏さんなどは、どの分野にも的確なコメントが出来る方で、テレビ・ラジオ各局から常に引っ張りだこの状況だ。
 そんな中、私も後述する新ワイド番組の立ち上げに際し、月~金の各曜日、五人のコメンテーターの人選に頭を悩ますハメになってしまった。
 ラジオの場合、インパクトがあることがコメンテーターの第一条件だ。その人の放つ意見には賛否両論が渦巻き、極端に言えば、番組終了後、「よくぞ言ってくれた」という賛辞と、「なんてことを言うんだ」という反発の電話が相次ぐようなコメンテーターが望ましいと思っている。
 知名度があって、医師や弁護士など何か専門分野を持っていればさらに良いが、偉ぶったり知ったかぶりをしないで、庶民の目線で話をしてくれる人であればありがたいと思っている。
 加えて言うなら、高学歴で専門分野もあるが独身、というよりも、家庭を持ち子供を育てている人の方が、話す領域が広く、社会保障や教育問題などに対するコメントも説得力があるような気がする。もちろん、清潔感や信頼性は不可欠だ。
 こうした点から考えて、私は新番組の目玉となるコメンテーターに、田中眞紀子代議士を是非迎えたいと思った。眞紀子氏なら、私が思うラジオコメンテーターの条件を充分すぎるくらい満たしていると思ったからだ。
 もちろん、外務大臣を辞めた経緯や、一度、議員辞職した報道などから、聴取者の中には眞紀子氏について反感を持っている人が大勢いるかもしれない。しかし逆に、「眞紀子さん大好き! 頑張れ!」という聴取者も同じくらいいるだろう。政治家として彼女を評価しないという人はいても、彼女のコメント能力に疑いを持っている人は滅多にいないのではないか。私自身は、眞紀子氏に、日本を変える政治家として今なお大きな期待を抱いているが、起用すること一つとっても、共感と反感が入り混じるようなら最高の人選だと思ったのだ。
 私は、彼女のパンチの効いたトークは番組にとって何よりの武器になるし、番組にレギュラー出演することは、眞紀子氏にとってもプラスになるはずだと企画会議に諮った。
 会議では異論が出た。眞紀子氏に対してではなく、「きっと眞紀子氏は引き受けないだろう」というものだった。それでも私は「やってみなければ分からない」と、衆議院議員会館にある事務所に、出演依頼というよりも手紙に近い内容の書面を持参したのだった。
 ――ラジオは小さな所帯です。予算もありません。スタッフの服装はGパンなどラフで、ゲストの皆さんへのお茶出しも紙コップです。それでも、テレビに負けず良い番組を作ろうという気概に満ちた現場です。是非、ご一緒していただけませんか――
 確かこのような内容だったと思う。事務所は留守番の女性しかおらず、願いが通じるかどうか、可能性は薄いと踏んでいたが、眞紀子事務所からの反応は予想以上に早かった。冒頭でご紹介した電話がかかってきたのは、手紙を書いてからわずか四日後のことであった。これから議員会館に来てくれという電話を受けた私はもちろん飛んでいった。眞紀子氏本人はちょうど出かけるところで立ち話程度だったが、
「細かい点は秘書さんと打ち合わせしていただけませんか」
 と眞紀子氏が言うものだから、私を待っていた年配の秘書とは、番組の概要だけでなく、会社のこと、ラジオ業界のこと、自分の仕事内容など一時間も話し込んできた。この秘書の方には自分の思いが通じたはずだ。部屋を出る時、そんな感触はあった。その感触だけが頼りだった。
 そのまた数日後、今度は、若い秘書から、
「今から文化放送に眞紀子議員が行きます」
 こんな電話がかかってきた。うわっ突然! と思ったが、「来てくれるということはOKなのか」と思うと、体の中で「やったあ!」という爆発させたいような歓喜の渦が拡がるのを感じた。

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