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すべらない敬語
梶原しげる

敬語を正しく使って嫌われた首相もいれば、「タメ語」連発で愛される人もいる。使えないのは論外だが、やたらと使うのも考えもの。敬語は必要に応じて使うべき「武器」なのである。「すべらない」敬語はどう身に付けるのか? 失敬と丁寧の境界線はどこにあるのか? 国の「敬語革命」、名司会者のテクニック、暴力団への口のきき方等々、敬語という巨大な森の中を探検するうちに、喋りの力がアップする一冊。

ISBN:978-4-10-610245-5 発売日:2008/01/17

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すべらない敬語



 1 敬語革命、勃発す


 敬語漬けの日本人
 大人が家を一歩出たら、話したり聞いたりする言葉の九割以上は「敬語」です。
 嘘だと思ったら、自分のしゃべりをイメージしてみてください。
 朝一番出社した若いあなたが「お早う」では偉そうに聞こえてしまいます。
「お早うございます」(丁寧語)
「お早うっす」(広い意味で丁寧語)
 軽い雑談も「今日は道が混んでいたな」ではなく、「混んでましたね」と言えば丁寧語になります。
「おい、茶飲むか」などと言うOLは多分いないでしょうから、「お茶お入れしましょうか」(美化語+謙譲語I)
 かかってきた電話にも「山田部長? いないよ」とは出ずに「はい、山田部長は休みを頂いております」(謙譲語I+謙譲語II〔丁重語〕+丁寧語)
「課長! 社長戻った?」はよほど立場が上の人でなくては使えない言い方でしょう。普通は「鈴木課長。お忙しいところ恐縮ですが、社長はお戻りですか?」(尊敬語+丁寧語)となるはずです。
 退社後、敬語ストレスから解放されたくて飛び込みで入った飲食店。目玉が飛び出るほどの請求額についつい「ふざけんじゃねーよ」と慣れない乱暴な口を利いたのがいけなかったのか。何となくアウトローな感じの店員が奥から出てきて丁重にこう言います。
「お客様。当店の会計に何か御異論がおありでしたら、お手数ですがちょっと店の裏までお越しいただけませんでしょうか」(怖いけどそれとは関係なく、尊敬語+謙譲語I+丁寧語)
 ほぼ完璧な敬語と共に、ボコボコにされてしまうわけです。
 さて、ここまでお読みになった方の中で「謙譲語にIだのIIだの、〔丁重語〕だのがついているのはナンなのだ?」と気になっている方もいらっしゃるでしょう。いや、ほとんどの方が気になるはずです。
 実はこれは、二〇〇七年二月に、国の文化審議会が出した最新の「敬語の指針」(以下、「指針」と記す)における分類を元に記しています。これまでならば「敬語にはどんなものがあるか」という問いに対して、「尊敬語、謙譲語、丁寧語の三つです」と答えれば正解でした。ところがこの「指針」では敬語をさらに細分化し、尊敬語、謙譲語I、謙譲語II〔丁重語〕、丁寧語、美化語、の五種類に分けて説明しています。
 相当な方向転換というか、革命的変化です。「小泉政権下で国民が知らないうちに、大変な事態が進んでいる!」と叫んでいた野党の皆さんもまったく知らない構造改革が敬語界において進んでしまっていたのです。革命がおおげさというならば、「敬語2.0」の時代が到来した! と言ってもいいでしょう(これもおおげさですが)。

 五分でわかる「敬語の指針」
 国民のほとんどが知らぬ間に進んでいた敬語界の構造改革、その内容を覗いてみましょう。ちなみに指針は、秘密文書でも何でもありません。文化庁のホームページから簡単にダウンロードも出来ますので、興味のある方は是非お読みください。かなり面白く読める部分もありますのでお勧めします。ただし、そうはいってもお役所の文章です。いささかとっつきが悪い部分もあります。そこで、まず本書ではごく簡単に、そのエッセンスを抜き出して解説いたします。
 五種類に分類された各敬語について見ていきましょう。
 まず「尊敬語」です。これは旧来からの定義と変わっていません。指針では、「いらっしゃる・おっしゃる」型として、「相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて、その人物を立てて述べるもの」と定義しています。「立てる」とは、尊敬すべき人物を、言葉の上で高く位置づけて述べること、としています。「顔を立てる」なんて言い方もありますが、ここでいう「立てる」は「一段高いものとしてたっとぶ」(『広辞苑』)と考えると理解しやすいでしょう。「その人物を心から敬って述べる場合」や、「その人物に一定の距離を置いて述べようとする場合」に、その人物を「立てる表現」を「尊敬語という」。尊敬語は、一口で言えばこれだけの事です。
 そして該当語例(このへんが「とっつきが悪い」と感じられるゆえんの言葉遣い)として、次のようなものをあげています。

 (1)行為等(動詞、及び動作性の名詞)……「いらっしゃる」「おっしゃる」「召し上がる」「お導き」「御出席」他。
 (2)ものごと等(名詞)……「お名前」「御住所」他。
 (3)状態等(形容詞など)……「お忙しい」「御立派」。

 いちいち「等」がついているのは、お役人が「それ以外にこれもあるぞ」という投書が来るのを恐れての事、程度に考えればいいでしょう。要するに「指針」では「尊敬語」の定義については目新しいところはありません。これまで通りの理解でOKです。

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