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居酒屋を極める

太田和彦/著

770円(税込)

発売日:2014/11/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

ひとり飲みの極意を伝授。孤高の居酒屋評論家、初めての新書!!

全国の店探訪歴三十年、「孤高の居酒屋評論家」が満を持して展開する「居酒屋論」。いや、決して堅苦しい講釈ではなく、いい店の見分け方や粋な注文法、一人でも心地よく過ごすためのコツに加え、全国の名店・名老舗の物語などなど持てる力をフルに発揮して大人の至福へ誘うという寸法。自身の酒呑み人生も交え、奥深い魅力を余すところなく披露。本書自体が酒の肴になること請け合い、今夜は居酒屋に行きたくなる!

目次
第一章 さて、今宵はどこに座ろうか
店選び「古くて、小さい店」が最初の目安
どこに座るか。初めての店は末席を見極める
酒場こそのカウンター
「とりあえずビール」のわけは
店のセンスが出るお通しと定番
旬の走りは迷わず注文
冷でよし温でよし。豆腐は居酒屋の肴の要
究極の「冷や酒」と奥深い「常温」
日本酒の本当の顔が見える「燗酒」
ひとり酒では何をすればいいのか
主人、女将とはさらりと話す
居酒屋が見せてくれる人の世の姿
人よんで「好酒一代男」
東京居酒屋御三家。変わらない「流儀」「居心地」「品格」
第二章 いかにして居酒屋評論家となったか
花の銀座で居酒屋デビュー
やがて青山、六本木。業界人な夜
月島から始まった下町・自己発見の旅
あやしい「居酒屋探検隊」結成
居酒屋評論家の誕生
切っただけのマグロより仕事をしたマグロ
東京の居酒屋を網羅した本格的評論
居酒屋研究は全国規模へ
第三章 北海道から沖縄まで――地元を味わえる名店はどこか
北海道――燃える火と温かさが最大のもてなし
東北――南部杜氏の「どっしり」酒を郷土食でじっくり
北陸――日本海の豊かな幸と地の利を活かした逸品
東京――なんでも揃う居酒屋都市で光る江戸っ子好み
関東・東海――山海の恵みを余さず堪能
京阪神――料理本位の食文化圏に吹く居酒屋新風
中国・四国――西の銘酒をすすませる地もの魚介の味
九州・沖縄――焼酎圏ならではの肴で飲み方もいろいろ
第四章 身も心も満たす「いい店」はどう探すのか
老舗五店から考える「居酒屋民俗学」
その街の心に触れる古い居酒屋のよさ
初めての土地でよい店を探すコツ
大人は居酒屋で心を満たす
中高年居酒屋デビューの心得
「あの人はいい人だ」と言われる客になりたい
旅の夜は居酒屋で
第五章 あのとき、何が起こったか――いつもそこに居酒屋があった
おいしいものを食べて飲める希望
人が集まれる場所としての居酒屋
気仙沼「福よし」に見た「希望の光」
酒飲みの義侠心
立ち上がる酒蔵に「神の手」が動いた

結び――世界中で愛される「居酒屋」
あとがき

〈付録〉著者による「太田和彦 居酒屋関係著書(1990~2014年)」解題

書誌情報

読み仮名 イザカヤヲキワメル
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610594-4
C-CODE 0263
整理番号 594
ジャンル グルメ
定価 770円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2015/05/15

書評

波 2014年12月号より 好きだからいつまでも

太田和彦

気楽な居酒屋で、親しい友と心を開いて一杯やる。せわしない日々の貴重なひとときだ。
居酒屋について初めて本を書いたのは一九九〇年。居酒屋評論家になろうなどと思ったわけではない。当時はバブル景気のグルメブームで、一晩で二万円の食事をしたなどということが自慢気に話され、グルメ評論家も現れた。それを皮肉ってやれというひねくれた動機だ。
やり方も遊び半分で、椎名誠さんの「あやしい探検隊」を真似て作った「居酒屋研究会」の手書き会報、発行部数五部が研究発表媒体だった。それがどう膨らんでいったかはこの本に書いた。
当時の居酒屋は「哀愁のオヤジたまり場」とからかわれこそすれ、まともには扱われず、文化人が自分の好きな店を書くことはあっても、それは高級な味を知る人の「意外な庶民性」であった。
ネット情報もグルメ雑誌もない頃に「研究」はすべて体当たりの直感だ。しかし未知の分野を拓いているのかもしれないという感覚は、自分を熱中させた。店を訪ねて記録するが、そもそも居酒屋は大衆のもので、権威的なエラソー評論家調は合わない。どういう文体がふさわしいかはすでに椎名さんの著作で学んでいた。
今や居酒屋ブーム。雑誌でいちばん売れる特集は居酒屋という。かつては「やあね」と言っていた若い女性も「居酒屋つれてって」だ。居酒屋は「脱サラ」でもできる商売ではなくなり、若い人の始める居酒屋は酒の勉強も料理も経営もしっかり勉強して始め、社会的に認知された一生を託せる仕事になってきた。私もやっているが居酒屋探訪のテレビ番組は山ほどある。
私も手を替え品を替え書いた居酒屋本はおよそ三十冊になった。初めは肴や酒への興味だったが、やがて居酒屋がいかに風土に根ざし、人々の寄り所になっているかを発見してゆく。また生活の根本を揺るがす自然大災害に際してどういう力を発揮するかも知った。
「もう書くことはないよ」と言う私に、新潮社の女性編集者は「そのすべてを一冊に凝縮してください」と欲の深い注文を出して一杯注いだ。美人にお酌されれば何でもやる。
書き上げて、自分はどうしてこんなことになったのだろうと考えた。私の本業はグラフィックデザインで、居酒屋でメシを食っているわけではない。本業の作品集は一冊だが、居酒屋本は三十冊だ。大学でデザインは教えたが、居酒屋は教えていない(少し教えました)。
始めた動機にすべてがあるとわかった。誰に頼まれたわけでもないことを、自分が好きなだけでいつまでも続けてゆく。その結果だと。「居酒屋を極め」たとて何の役にも立たないがそれでよい。
そしてさらに気づいた。「おもしろいと思うことをずんずん進め、本にも書く」は椎名さんの後を追ったのだと。
はからずもこの本は「椎名誠さんに捧ぐ」となったのである。

(おおた・かずひこ 居酒屋評論家・グラフィックデザイナー)

蘊蓄倉庫

「とりあえず、ビール」にはわけがある

「とりあえず、ビール!」と言ってはいけない風潮があるそうです。
 結構な歳の人間としては「何が悪い」と思うのですが、なんとかのひとつおぼえのようにこのフレーズを使うのは若い人には嫌がられるらしい。
 ビールが飲めない人もいるし、それぞれの好みがあるし、と。
 しかし、居酒屋評論家の「とりあえずビール」にはわけがあって、席に座れば店の人がお通しを持ってきて、注文を待つ。
 こちらが何か言うまで隣に立つ。
 急かされた気がして慌てて「ビールと枝豆!」、などと妥協しないために「とりあえず、ビール」(だけ)。
 お通しとビールでやりながら、品書きをざっと眺めて肴の注文を組み立てる。
 ひと通り目処がたったところで、「はい、注文」と合図する。
 酒を変えるなら、瓶ビールが飲みきれなくても、置いておいて後で口直しにしてもいい。
 注文を組み立てておけば、空の皿に気がついた店の人に「何かお持ちしますか」と聞かれても「えっと……品書き、見せて」に時間がかからない。
 なんでもないことのようですが、この流れが自然にできると居酒屋では様になるんですね。
掲載:2014年11月25日

担当編集者のひとこと

酒場の師匠に学ぶ立ち居振る舞い

 これまで何冊か、太田和彦さんの本をお手伝いしてきました。
 仕事の相談は太田さんの事務所で、あるいはメール、電話で、が多いですが、時折「打ち合わせを兼ねて○時に○○(店名)で……」などとお誘いいただくと、待ってましたと馳せ参じます。
 しっかり、きっちり打ち合わせをして(その間はビールちびちびで我慢)、「はい、打ち合わせ、ここまで!」とご本人から号令がかかると、いよいよ燗酒に突入します(夏は冷やですね)。
 肴の注文、お酒の銘柄、お燗の温度……すべて太田さんにお任せします。
 品書きはじっくり眺め、適当に「コレでいいや」とはなりません。
 でも、店のご主人が「今日は○○がいいの入ってます」とわざわざ声をかけてくれば「じゃ、それ一つ予約」と即答。
 お酒の品揃えが多いところでは、お店の方におススメを尋ねることも(いくつか銘柄を挙げてもらって選んだり)。
 盃一杯目を口に含むと、しばし瞑目。
 おもむろに店内を無言で眺め、「いいでしょう。この造りと雰囲気」と独り言のように仰り……。
 酒場の師匠の立ち居振る舞いを学ぼうと、失礼を承知で、もてなすべき立場の担当はただ相槌を打つのみ。目の前に、テレビの居酒屋探訪番組と同じ光景が……。
 いや、いかん! 一人で喜んでいてはいかん! この太田ワールドを書いていただき一冊にまとめるお願いをするのだ!
 ……というわけで出来上がったのが本書です。
 太田流・居酒屋の楽しみ方だけでなく、もちろん全国の名店・名老舗の話、自身と居酒屋のこと、さらに居酒屋を軸にして見た二つの大震災の復興など、密度の濃い内容に仕上げていただきました。ぜひ、ご一読ください。

2014/11/25

著者プロフィール

太田和彦

オオタ・カズヒコ

1946(昭和21)年生まれ。グラフィックデザイナー、作家。東京教育大学(現・筑波大学)卒。資生堂宣伝制作室を経て独立。著書に『超・居酒屋入門』『日本居酒屋遺産』『映画、幸福への招待』など。

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