Yonda?Mailを読んでくださっている皆さん、こんにちは。
今日は星新一さんの新刊『つぎはぎプラネット』をご紹介します。
SFを中心に、生涯に1000以上もの作品を作り、“ショートショートの神様”と呼ばれた、星新一さん。皆さんも、きっと何編かは読まれたことがあるのではないでしょうか。なかには「出ている作品は全部読んだ!」という、大変なファンの方もいらっしゃるかもしれません。
新潮文庫だけでも実に累計3100万部を超え、今なお幅広い読者に愛され続けている星作品ですが、没後16年となる今年は、理系的発想に基づいた物語を一般公募する文学賞「星新一賞」(主催:日本経済新聞社)が創設され、作家・星新一がさらに幅広い注目を集めています。
さて、それでは9月新刊『つぎはぎプラネット』の内容をご紹介します。本作は、文庫初収録の知られざる名短編、名ショートショートや奇想天外でシニカルなSF川柳を集めた、ファン垂涎の作品集です。
SF川柳は、もとは小松左京さんや筒井康隆さんといった超豪華な顔ぶれで、雑誌「SFアドベンチャー」(徳間書店)の編集部が開いた座談会中に、著者が次々と発表したもの。しかも、その雅号はなんと「笑兎(ショート)」!
政治家の ロボットにぎにぎ よく覚え
日本人 火星へ行けば 火星人
あの先生 こんなバカかと 読者言い
上記の3句は、本作品に収録されている101句のうちの例にすぎませんが、あらためてその天才、奇才ぶりがうかがえます。
川柳の頁の最後には、「もったいないな。これだけのアイデアを……。ひとつひとつ組み立てりゃ小説になるかもしれん」という、思わずこちらが吹き出してしまうような、ご本人の嘆息つきです。
そのほか、同人誌に掲載され、書籍、文庫に収録されないままとなっていたショートショート「栓」、児童向けの雑誌に書かれた、理系のセンスが光る名短編「食後のまほう」など、ほかでは読めない入手困難作品がたくさん詰まっています。
本作品を読んでいただいたら、きっとほかの星作品も読んでみたくなるのではないでしょうか。
新潮文庫では現在42作もの星作品が刊行中ですが、『つぎはぎプラネット』と同時に復刊される長編SFホラー『夢魔の標的』もお勧めです。星作品では珍しい長編ですが、ショートショートそのままの洒脱な文章に導かれ、あっという間にその世界に引き込まれるストーリー展開です(かわいらしい腹話術のお人形クルコちゃんがある日突然勝手に話し出す……というちょっと怖いお話です)。
次々と読みたくなってしまう、癖になるほどおもしろい星さんの作品ですが、読んだときの年齢や立場によって、心引かれる作品やその感想も違ってくるのではないでしょうか。私は『つぎはぎプラネット』収録のショートショート「タイム・マシン」を読んだとき、「若い頃なら、この作品にここまで感動しなかったかもしれない」と、しみじみとその味わいを噛みしめました。母親と息子が登場する、文庫でわずか2ページの物語ですが、胸が締め付けられるような深い余韻がありました。
星作品ならではの、色彩豊かな魅力がぎゅっと詰まった『つぎはぎプラネット』。ぜひお読みいただけましたらありがたく存じます。