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160年間忘れ去られていた奇跡の実話『ある奴隷少女に起こった出来事』

1、最初の奇跡
 本書は出版から160年後に不死鳥のように蘇った、まさに奇跡の一冊です。
 執筆当時、存命だった関係者の安全のため「リンダ・ブレント」なる偽名で執筆された本書は、読み書きを禁じられていた奴隷のそれとは思えないほど知的な文体で綴られていること、また主人による強姦の横行という非常にショッキングな内容から、「フィクション」とみなされ、忘れ去られてしまいました。
 それから約100年後、アメリカの歴史学者イエリン教授が一通の書簡を見つけたことが、この本にとって第一の奇跡でした。
 その文体に強い既視感を感じたイエリン教授は本書の著者「リンダ」という女性について歴史公証を重ね、彼女が「ジェイコブズ」という実在の奴隷であったことを証明したのです。出版から160年後、1987年のことでした。以後、本書は大きな話題をよび、アメリカで大ベストセラーとなりました。

2、二度目の奇跡
 しかし小さな少女の快進撃はとどまることを知らず、2011年の夏、二度目の奇跡が起きました。サラリーマンである訳者・堀越ゆき氏が偶然、amazonランキングで本書を発見し「これは誰かが翻訳しなくてはいけない、私たちのための本である」そう感じたそうです。
 強い使命感にかられた堀越氏は、翻訳のプロでない自身が訳すことの正統性に悩みながらも、仕事の傍ら夢中で翻訳を続けました。そして2013年、ついに日本でに単行本が刊行されて以降、翻訳ノンフィクションでは異例の売れ行きを記録し、啓文堂大賞を受賞する快挙を成し遂げました。
 黒柳徹子さん推薦、解説は佐藤優さん。全くバックグラウンドの異なるお二方にも共鳴する強い普遍性、そして出会った人すべてに感動を起こさせる強い熱量をもつ本書をぜひご一読ください。

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2017年07月14日   今月の1冊
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