ホーム > 新潮文庫 > 新潮文庫メール アーカイブス > 一夜の過ちが生んだ凄絶な純愛大河小説「クリフトン年代記」、遂に完結!
新潮文庫メールマガジン アーカイブス
一夜の過ちが生んだ凄絶な純愛大河小説「クリフトン年代記」、遂に完結!

 わたしが妊娠しなかったら、この物語が書かれることはなかっただろう――
 このほど完結した全7部(全14巻)、総頁数およそ5000頁におよぶ大河小説「 クリフトン年代記」の書き出しの1行です。「わたし」というのは、イギリスの港町に暮らす貧しい労働者階級の女性です。 同じ境遇の男性との結婚を間近に控えた彼女が、ふとした気まぐれである男と一夜の関係を結んだために、波瀾万丈の物語の幕が開いてしまいます。
 相手の男性は海運会社の社長、すなわち富裕な上流階級の紳士でした。やがて彼女は結婚して、運命の子ハリー・クリフトンが誕生します。 成長したハリーはまるで何かに導かれたように、海運会社の社長の娘エマ・バリントンと出会い、恋に落ちてプロポーズします。 しかし、実は兄妹かもしれないという事実が二人を残酷に引き裂いてしまいます。そして、それでも愛を貫こうとする二人の強烈な意思が、凄絶なドラマを生み出していくのです。
 1919年に始まった物語は、第二次大戦をはさんで20世紀のイギリス史を背景に展開していきます。その間にハリーとエマの前に様々な人間が現れ、愛憎と欲望にまみれた出来事が次々に起こります。 裏切り、不倫、詐欺、殺人......まるで聖書の十戒のすべてを破戒するかのようです。しかし一方で愛を保ち続ける二人は、信義を固く守り献身をいとわぬ英国古来の騎士道精神的な行動をとり続け、 それが読む者の胸を強く打ちます。

 果たして二人の純愛はどのような結末を迎えるのか。 発売されたばかりの第7部『永遠に残るは』のラストはあまりにも衝撃的で、 しかも感動的です。稀代のストーリー・テラー、J・アーチャーが人間の美醜賢愚を描き抜いたこの大作、読み始めたら頁を繰る手が止まらなくなること請け合いです。 読書の秋に、ぜひ第1巻からお楽しみください。
 

泣ける。そして元気が出てくる。ブレイク間違いなしの実力派作家が描く、心に刺さる家族再生の物語!
 休日の公園で、歓声をあげサッカーボールを追いかける幼い子供と、その姿を優しく見守る父。 平和を絵に描いたような微笑ましい光景が、もし悲劇の入り口になったとしたら――。
 新潮文庫11月新刊の小野寺史宜さんの『リカバリー』は、 消せない傷を負った人々がそれぞれの哀しみを乗りこえる姿を描く感動の物語です。

 悲劇のきっかけは交通事故。公園でのボール遊びの最中、父のミスキックを夢中で追いかけた息子が、路上に飛び出したことで不運は起こりました。 車にひかれ、息子をなくした父は自暴自棄の果てに家庭を壊します。一方、加害者も子を持つ父親。彼は責任を家族に負わせぬよう離婚し、息子を自分の戸籍から外して、ひっそり自死を選びます。 ひとつのミスキックが、ふたつの命を奪った......。
 2012年に刊行された本作は、今回文庫化するにあたり心機一転、改題されました。タイトルの「リカバリー」に、傷ついた心身の回復を思う人もいれば、 絶体絶命の味方のピンチを身体を張って防ぐサッカーのディフェンスを想像する人もいるでしょう。

 奇しくも、大切な家族をなくしたふたりの主人公、被害者の父・灰沢考人と、 加害者の息子・砂田佳之也はどちらもサッカー選手。父と子ほど年齢は離れていますが、同じプロのピッチで勝利を目指す者同士です。 なので、いわゆるサッカー小説を想像するかもしれませんが、それだけではありません。リアルな試合描写には、著者の小野寺氏自身のサッカー経験者の視点が随所で光り、サッカー好きも充分満足させます。 しかし、それにも増して貴重なのが、心に深手を負った主人公が、彼らの一進一退を温かく見守る人々のなかで、少しずつでも着実に前に進む力を蓄えていく姿です。

 例えば、〈灰沢さんのチーム、強いんだね〉と母に内緒で、離婚後の父にメールを送る娘・素之香。交際前から青年・佳之也の努力と才能を見抜き、支えた恋人・青海の〈砂田くんは誰よりがんばってるよ。〉の言葉。 そして、亡き父が遺書に大きく書き残した〈佳之也、がんばれ〉の文字......。
 物語の大小様々のシーンに印象深く刻まれる。こうした無償の愛情の連鎖は、年齢性別を超えて、読む人の心を清らかなもので満たし、大切な誰かのことを強く思い出させてくれるはず。 それこそがまさに「リカバリー」の力なのです。この感動作から、前を向いて生きる元気を手に入れてください!
 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年11月15日   今月の1冊
  •    
  •