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最強の刑事、上河内警部、ただいま着任!

 安東能明が改めて注目される契機となったのが、『撃てない警官』。 日本推理作家協会賞に輝く「随監」を含むこの警察小説集で、94年デビューのベテラン作家は新たなステージに立ちました。 以降、安東氏は、柴崎警部シリーズをコンスタントに上梓し続けています。
 シリーズの魅力は、"地味に凄い"柴崎令司警部に加え、さまざまな個性の警察官たちが次々と加わってゆくところ。柴崎の上司である坂元真紀・綾瀬署署長は生真面目に正義を追い求め、解決のためなら先輩キャリアに直談判することも辞さない女性です。
 警察手帳紛失で躓いてしまった、盗犯第二係・高野朋美巡査は、持ち前の勘と粘り強さで次第に先輩刑事たちに認められる存在に――。
 そして今作では、上河内博人警部が刑事課長代理として着任しました。本庁捜査二課から来た彼は、軽口ばかり叩く、綾瀬署にこれまでいなかった陽性のキャラクターですが、実は、事件が起きるととことんのめり込む、根っからの刑事です。
 そんな彼に相棒として指名されたのが、内勤のプロである警務課長代理の柴崎。上河内はどうも、柴崎には捜査員としての才能があると考えているようなのです。
 新たな血を加え、さらにパワーアップした綾瀬署。本作で警察小説の醍醐味をたっぷり味わってください。

ポスドクはつらいよ!? 笑えて泣けるエンターテインメントにして問題提起の書!?
 かつての日本では、優秀な子どもの将来に期待して、「末は博士か大臣か」などと言ったものでした。ところが、時は流れて現在の日本。 大学院を出て博士号を取得しても、大学にポストがないために正規の職に就くのは至難の業。やむなく任期制の仕事に就いている博士研究員、 いわゆる「ポスドク」の待遇が問題になっています。
 小説『ポスドク!』の主人公、瓶子貴宣へいしたかのぶも まさにその一人。博士号を取得し、語学にも堪能、優秀な論文も発表しているのに、34歳にして、なんと月収は10万(涙)。
 しかも貴宣は、姉に育児放棄された小学生の甥、ほまれを少ない収入で養ってもいるのです。 出来がよくて家事もカンペキの甥っ子との生活は、快適で楽しくもありますが、忙しさと貧乏のせいでガマンをさせてもいるようで......。
 甥っ子のためにも、なんとかして専任講師の職を得たい!
 そう執念を燃やす貴宣に、大学内で一番の権力者といわれている大和教授から声がかかります。千載一遇のチャンスが到来か!?
 大和教授に頼まれたプロジェクトを成功に導くべく、日夜仕事に励む貴宣でしたが、こんどは家庭でも問題が勃発。 なんと、身勝手にも姉が誉を連れ戻しに来たのです――。
 奮闘する貴宣の姿に笑えて泣ける、盛りだくさんの小説、それが本書『ポスドク!』ですが、読んだ方は皆、「大学で職を得ることって、本当に大変なんだなあ......」と「ポスドク問題」の厳しい現実もいやというほど認識させられることでしょう。
 先日のネットニュースによれば、小学生の男の子の将来の夢ランキングで、「学者・博士」が15年ぶりにトップになったそうです(第一生命保険調べ)。 未来を担う子どもたちの純粋な夢をかなえるためにも、ポスドクの就職問題はぜひとも改善されるべきですよね。
 博士だけじゃなく、大臣の皆さんもぜひ、『ポスドク!』を読んでくださいね!

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2018年01月15日   お知らせ / 今月の1冊
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