「余部」と書いて、「あまるべ」と読みます。今年7月16日、取り壊されることになった山陰本線の名鉄橋「余部鉄橋」は、新聞各紙にもカラー写真で掲載され、話題となりました。
地上41.5メートル、全長310メートル。断崖がそそり立ち、烈風吹きすさぶ余部の谷に架けられた鉄橋は、名実ともに日本一の鉄橋でした。本書は、日本海の風雪に耐え、時代を越えて生き抜いてきた「余部鉄橋100年」のノンフィクションノベルです。
国家の威信をかけて鉄橋建設が始まったのは、日露戦争後の明治42年。当時、山陰本線は対ロシア防備の生命線であり、全線開通は喫緊の課題でした。しかし、余部は海と山が複雑に入り組む僻地。しかも、鉄道ルートは高度約40メートルで余部の谷にぶつかります。この高度を維持しつつ、幅300メートルの谷に橋を架ける。明治の技術陣にとって、前代未聞の難工事でした……。
それから1世紀。
侵蝕する錆から命がけで鉄肌を守り続けた大正・昭和の「橋守」魂、昭和61年暮れに起きた列車転落事故、「陸の孤島」余部の切実な願い、新橋建設に命を燃やした男たち……。
地域を支え、土地の風土に溶け込んできた鉄橋の100年は、「直下に暮らす人々の100年」でもありました。
喜びも悲しみも幾歳月。鉄橋に愛着をいだき、ともに生きてきた地元の人々の、ささやかだけれど語るに足る暮らしが、ここにはあります。
平成の「余部鉄橋」は、今夏8月12日に開通を迎えます。
(2010年7月30日)