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「カジノの帝王」シェルドン・エイデルソンの次の一手
[短期集中連載]
「カジノの帝王」シェルドン・エイデルソンの次の一手

米ワシントン州立大学コミュニケーション学部教授
ソニー株式会社エグゼクティブ・アドバイザー
北谷賢司 Kitatani Kenji

「カジノの帝王」シェルドン・エイデルソンの次の一手
>>シェルドン・エイデルソン
 去る九月下旬のこと、七十二歳の車椅子の老人が、部下二人とセラピストに伴われラスベガス国際空港に到着した。乗り込んだのは彼自身が所有する世界最大のプライベートジェット、ボーイング767。向かう先はニューヨークだった。
 今年、新調したばかりで革張りシートの臭いが残る機内には、個人として毎年最大額の寄付を行なっているイスラエル政府から、答礼として派遣されている特務機関モサドの精鋭部員が二人、平服でクルーと共に搭乗している。この日のフライトは、訪米中のシンガポール政府関係者との会議に出席するためである。
 本誌八月号でも報じたように、シンガポール政府はカジノリゾートの開発を決定した。世界の数多くのカジノ関連企業が参画を狙っている。新規免許入札企業である老人の会社からのプレゼンテーションを受けるための会議は、その業務提携先である北米最大手の興行会社クリアチャンネルのマンハッタン・オフィスで行なわれることになっている。
 巡航高度に達すると、一兆円以上の個人資産をもち、ラスベガスで最も収益性の高いカジノ会社、ラスベガス・サンズ社株の八六%を握るシェルドン・エイデルソンは、資料を整理しながら、ここ数年、彼に車椅子での生活を強いている脊椎静脈叢の持病の治療のため、セラピストによる足のマッサージを受け始めた。

カジノ産業の「常識」を打破

 一九八九年まで、カジノ産業とは何らの関係ももっていなかったエイデルソンは、それまでは重視されていなかったコンベンション(見本市や展示会を含む大規模会合)、高級ホテル施設、高品位エンタテインメントをラスベガス市場に持ち込んだ。それまでのラスベガスのビジネスモデルは、客がカジノ以外の付帯施設や部屋で過ごす時間が可能な限り短くなるよう仕向けることを基本としていた。カジノでの滞在時間をなるべく増やし、より多くのお金を落とさせようというわけだ。
 だが、このビジネスモデルが間違いであったことを、エイデルソンはラスベガスで実証した。さらに、いま、その経営理念を国際市場で示してみせようとしているのだ。
 今後二年間でマカオに四十億ドルの資本を投入する。次いで、シンガポール、英国、韓国、そして日本への進出を目指して精力的に飛び回っている。彼にとって、767機の選択は、世界最大のプライベートジェット機所有者になるためではなく、持病を抱えた体でラスベガスからの行動範囲を広げるためであり、合理性を追求したに過ぎないのである。
 エイデルソンは、ボストンの貧民街で育った。

(敬称略。続きは本誌でご覧下さい)
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