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情報を共有することによって生まれるスピードとパワーについて、私たちはもっと真剣に考える必要がある。そう強く思うようになったのは、私が(株)はてなに参画し、インターネットを駆使する若い世代の全く新しい仕事の仕方を経験してからだ。むろん従来型大組織だってインターネットを活用している。莫大なコストをかけたグループウェアが社内システムとして動き、誰もが電子メールを利用する。では最大の違いは何か。
私が、はてなで仕事を始めてまず不思議に思ったのは、彼等が社内で電子メールをあまり使わないことだった。その代わり社員全員が、ビジョンや戦略の議論、新サービスのアイデアから、日常の相談事や業務報告に至るまで、ほぼすべての情報を、社内の誰もが読めるブログに書き込む形で公開し、瞬時に社員全員で共有するのである。特定の誰かに指示を仰ぐための質問、それに対する回答、普通なら直属の上司にまず報告すべき内容、すべていきなり全員に向けて公開するのである。
取締役に就任すると同時に、シリコンバレーに住む私にもその社内アカウントが与えられた。去に遡って全員のブログを読み進めていくうちに、本当に何から何まで情報が共有されていることに驚いた。以来「同社の社内システムに入り、寝ている間に起こったすべてを把握し、必要に応じて自分の意見を書き込む」ことが、私の毎朝の習慣となった。そしてしばらくして、これは「組織と情報」に関するコペルニクス的転回なのだと気づいた。
私たちが慣れ親しんできた「組織の仕事」では、組織内の情報は#隠蔽されているのが基本である。別の部署で何が起きているのかはわからない。トップが毎日何を議論しているのかを知ることはできない。「この人間に、この情報は開示しても構わない」と誰かが判断した情報だけが開示される環境下で、個々人が仕事をしていく。だから、貴重な情報を握ってコントロールすることが組織を生き抜く原則となる。よって部門内や部門間で、情報共有を目的とする会議が増えていく。
できあがってしまった大組織では、組織内にさまざまな矛盾を孕んでおり、組織の構成メンバーのすべてを信用することなどできない。また組織内の個人という観点からも、貴重な情報を囲い込むことで専門家としてのアイデンティティを確立し、組織内での競争力を維持しようと考えがちだ。あらゆる情報を組織全体に向けて公開することなどできないのである。
一方、モティベーションの高いメンバーだけで構成される小さな組織で、すべての情報が共有されると、ものすごいスピードで物事が進み、それが大きなパワーを生む。
ところで電子メールとは、情報の送り手が情報の受け手を選ぶ仕組みである。つまり情報の隠蔽を基本とする従来型組織を支援する情報システムだ。一方、情報の公開を原則とする新しい仕組みの場合、あらゆる情報が公開されていても、絶対に処理しなければならない自分宛の情報以外は、読んでも読まなくてもいい。情報の送り手ではなく受け手が、必要な情報を選んで処理していくのである。
たとえば私の場合も、開発やユーザー対応に関する内容についてはざっと眺めるだけで詳細は読まない。何かのきっかけで興味が湧けば、過去に遡って検索する程度だ。逆に、朝から晩までプログラムを書いているエンジニアたちが、経営戦略について私が書く考えをどれだけ読んでいるのかはわからない。社員全員が書き込む厖大な情報が、そのように自律的に淘汰・選別され、粛々と処理されていく。
私も最初は戸惑ったが、新しい思考法に慣れてきた今、仕事の生産性が著しく向上するのを実感する毎日だ。誰かが提示した問題点が別の誰かによって解決されるまでの時間や、面白いアイデアが現実に執行されるまでの時間は、ときに数分という場合さえある。従来型組織の「時間についての常識」を破壊するスピード感は、なるほど情報共有を前提とした組織原理によってもたらされるものなのかと気づいたのである。
はてなの社内システムは、グーグルが創業時から採用してきた社内システムとよく似たものである。はてなはまだ、私も含めて十一名の小さな所帯なので、この仕組みが実にうまく機能する。ただ、組織が次第に大きくなると、それにつれて爆発的に増加する情報を処理しきれなくなるリスク、さらには情報流出リスクも大きくなることは容易に想像がつく。
しかし三千五百人の公開企業となった大組織グーグルでは、創業以来の社内システムをそのまま三千五百人にまでスケールアップして、しっかりと使い続けているらしい。機密情報をやり取りする電子メールの仕組みとの併用ではあるが、大組織にとっては諸刃の剣のようなこの情報共有型組織原理を迷うことなく貫いているという。それはグーグルの経営者が、自らのスピードとパワーの源泉がこの組織原理にあることを強く自覚しているからなのである。
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| 梅田 望夫 |
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| 梅田望夫 うめだ・もちお |
| ●ミューズ・アソシエイツ社長。1960年東京生れ。94年渡米、97年コンサルティング会社ミューズ・アソシエイツを起業。著書に『ウェブ進化論』(ちくま新書)、『ウェブ時代をゆく』(同)、『ウェブ時代 5つの定理』(文藝春秋)、『ウェブ人間論』(共著、新潮新書)など。メジャーリーグの野球、そして将棋の熱烈なファン。 |
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