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「日本社会には、若い世代の創造性や果敢な行動を刺激する『オプティミズム(楽天主義)に支えられたビジョン』みたいなものが決定的に欠けているのではないか。 (中略)シリコンバレーで私は、人生の先輩たちが示すおっちょこちょいで楽天的なビジョンと明るい励ましに、どれだけ助けられ、救われてきたことだろう」
前回の本欄で私はこう書いた。いま話題の「Web 2.0」という新語を巡って、もう少しこのことについて考えてみたい。
インターネット時代が到来して十年が経過したが、十年も経てばその意味もずいぶん変わってくる。ならばそこを峻別し、これまでの世界を「Web 1.0」、これからの世界を「Web 2.0」と呼ぼう。シリコンバレーにそんな気運が高まったのが今年の春頃で、今もこの新語の定義を巡る議論が続いている。
「Web 2.0」とは、「ネット上の不特定多数無限大の人々を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認め、積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」である。これが私流の解釈だ。誰もが自由に、別に誰かの許可を得なくても、あるサービスの発展や、ウェブ全体の発展に参加できる構造を用意する。それが「Web 2.0」の本質である。「総表現社会」という未来像を実現するための道具立てだと言うこともできる。
ネットに対する日本での論説は、善悪なら悪のほうに、清濁なら濁のほうに、可能性と危険なら危険のほうに目を向け、「そこを指摘することで世の中に警鐘を鳴らすのが自分たちの役割だ」という立場を取りがちだ。
しかし対象が不特定多数無限大なら、悪や濁や危険が混ざるのは当たり前である。ネット世界から気に入らぬ現象を選び「これはひどい」と言うのは誰にでもできる。とても簡単だし、しかも思慮深く見えるから、そういうことを書きたくなる。だからネットを知らない評論家や知識人は、安易にこの陥穽にはまる。「Web 2.0」時代は、これまで以上に不特定多数の参加が強調されるので、こうした論説の傾向に拍車がかかるだろう。
しかしそんな当たり前な批判で話が終わるくらいなら、「Web 2.0」などという新語が現れるわけがない。シリコンバレーがいくら「おっちょこちょい」でも、それほどバカではないのである。
「Web 2.0」には、技術によって不特定多数無限大の良質な部分が抽出可能なのではないか、という思想が内包されている。アンチ・エスタブリッシュメント的気分と技術志向のオプティミズムが交じり合ったシリコンバレー精神が、その背骨になっている。
社会にはむろん善悪、清濁、可能性と危険が混在する。しかしネット上の数千万、数億という人々に内在する「善・清・可能性」の部分の「絶対量」は厖大である。それを集約できればいいのだ。そのための技術の進化は日進月歩ならぬ秒進分歩のスピードで加速しており、集約コストはチープ革命の恩恵を受けて限りなくゼロに近づいていく。
「Web 2.0」とは、技術によって集約可能な「善・清・可能性」の「絶対量」に注目する考え方なのである。だからグローバルに、若い世代の共感を集める力を持っている。
ネットに批判的な評論家や知識人の特徴は、「不特定多数の参加イコール衆愚」と短絡することである。むろん自らのエリート意識の裏返しであり、新時代への無意識の危機感が表出している面も強い。しかし米国では、「不特定多数の意見をどのようなメカニズムで集積すると一部の専門家の意見よりも正しくなるか」という実験研究や技術イノベーションも着実に進んでいる。
悪や汚濁や危険が存在するからという理由でネットを忌避し、「不特定多数の参加イコール衆愚」だと考えて思考停止に陥ると、これから起きる新しい事象を眺める目が曇り、本質を見失うことになる。忌避と思考停止は何も生み出さないと私たちは肝に銘じるべきだ。
「Web 2.0 とは何か」という質問に答えて、eベイの創業者ピエール・オミディヤーはこう語った。
「道具を人々の手に行き渡らせるんだ。皆が一緒に働いたり、共有したり、協働したりできる道具を。『人々は善だ』という信念から始めるんだ。そしてそれらが結びついたものも必然的に善に違いない。そう、それで世界が変わるはずだ。Web 2.0 とはそういうことなんだよ」(http://ross.typepad.com/blog/2005/10/pierre_omidyar_.html)
善悪、清濁、可能性と危険を全部呑み込んだ「不特定多数無限大」という怪物と対峙し、先行きがわからない不安に#苛{さいな}まれつつも「Web 2.0」時代を切り拓く技術と新しいサービを創造して世に問おうとする若者たちの心に、こういう言葉がじんと響く。苦しいときの支えになる。
「人生の先輩たちが示すおっちょこちょいで楽天的なビジョンと明るい励まし」と私が言うのは、たとえばこういうことなのである。
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| 梅田 望夫 |
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| 梅田望夫 うめだ・もちお |
| ●ミューズ・アソシエイツ社長。1960年東京生れ。94年渡米、97年コンサルティング会社ミューズ・アソシエイツを起業。著書に『ウェブ進化論』(ちくま新書)、『ウェブ時代をゆく』(同)、『ウェブ時代 5つの定理』(文藝春秋)、『ウェブ人間論』(共著、新潮新書)など。メジャーリーグの野球、そして将棋の熱烈なファン。 |
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