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特集 ことばの危機、ことばの未来

考える人 2017年冬号

(季刊誌 年4回発売)

980円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2016/12/26

発売日 2016/12/26
JANコード 4910123050270
価格 980円(税込)

特集
ことばの危機、ことばの未来


スペシャルインタビュー
池澤夏樹ことばは変わるからこそおもしろい

スペシャルエッセイ
工藤直子 河合隼雄さんと、まだ話し続けている

評論
飯間浩明 “今どきの若い者”はことば遣いにうるさすぎる

評論
会田弘継 「声なき多数派」が頼った“言葉の革命”

エッセイ [響くことば、届かないことば]
小島慶子、 金菱清、 片桐はいり、 塩野米松、 有森裕子、 武田砂鉄、 都築響一、 最果タヒ、 森川すいめい、 岸政彦、 温又柔、 今村かほる

エッセイ [使ってみたいこのことば]
朝倉かすみ、 竹内政明、 能町みね子、 山田航

ルポ [ことばを届ける仕事]
港の人・上野勇治
イハラ・ハートショップ・井原万見子
ナナロク社・村井光男

スペシャルインタビュー
ユヴァル・ノア・ハラリ ホモ・サピエンスと言葉

特別企画
「のこぎり屋根」の工場で見つかった
文明開化のリボン 森まゆみ

特別企画
対談
梯久美子×中島京子
書かれることの痛み
「死の棘」の妻、島尾ミホをめぐって

鼎談
糸井重里×細野晴臣×横尾忠則
できれば、できるだけ軽く遊びたい[後編]

新連載
田中ゆかり 読み解き方言キャラ

コラム
考える冬 小川さやか

連載
graphic special
都築響一 圏外写真家
田原桂一 光の意志

high thinking
細野晴臣 地球の音
千葉望 風流人をさがして
養老孟司 森の残響を聴く
石川直樹 いまヒマラヤに登ること
糸井重里 いまさらだけど、マンガっていいなぁ。
向井万起男のどんな本、こんな本
池澤夏樹 科学する心
マイケル・エメリック 行ったり来たり
杉本圭司 小林秀雄の時 ある冬の夜のモオツァルト(最終回)
苅部直 「文明」との遭遇
宮沢章夫 牛でいきましょう

plain living
三宮麻由子 暮らしのサウンドスケイプ
村井理子 村井さんちの生活
是枝裕和 空の虫かご
近藤雄生 ここがぼくらのホームタウン


◯「しつもん、考える人」は今号休載いたします。

この号の誌面

お知らせ

編集部の手帖

 特集を準備している間に世の中の雰囲気が変化していく、という経験は何度もしてきました。大事件の起きた時などはまさにそうです。二〇〇一年九月十一日の米同時多発テロ、二〇一一年三月十一日の東日本大震災などは、その最たるものです。前者では、当時担当していた雑誌の特集をすべて組み替えました。
 今回の場合は、ジワッジワッと変化が感じられてきて、最後にドンと、決定的なひと押しがあったという感じでしょうか。米大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利のことです。特集を作り始めた入口と出口では、まわりの風景や空気がかなり違ってきました。
 昨年、「うれし泣き」の顔を表した絵文字を「今年の言葉(ワード・オブ・ザ・イヤー)」に選んで話題を呼んだ、世界最大の英語辞典であるオックスフォード英語辞典は、二〇一六年を象徴する言葉に「post-truth(真実後)」を選びました。「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的な信念への訴えかけよりも影響力を欠いている」ことを理由に挙げています。この形容詞は、英国のEU離脱や米大統領選の論評の中で多用され、前年比で使用頻度が二十倍に増えたといいます。
「post-truth politics」が深刻な問題としてにわかにクローズアップされたのは、英国におけるEU離脱をめぐる論争でした。慶應義塾大学教授の細谷雄一氏(国際政治・外交史)は、この問題で残留派と離脱派がとった戦略は「実に対照的だった」と述べています。すなわち、当時のキャメロン首相は、「可能な限り信頼できる客観的なデータに基づいて、EU加盟の意義を国民に理解してもらおうと試み」、計三千頁にも及ぶ膨大な報告書を公表しました。しかし、「それはあまりに複雑で難解であり、多くの国民には理解が困難」でした。
 一方、離脱派はそのような煩瑣な手続きは踏まずに、「感情に訴えて国民をEU離脱に誘導」しました。成功したのは、「意図的に誤ったデータを繰り返し語り、虚偽の情報を事実であるかのように世論へ浸透させること」の方でした。結果、国民投票で勝利するや否や、離脱派が公約はうそだと明かす一幕が生まれました。
 トランプ氏については会田弘継氏が本誌特集に書いているように、七割以上が虚言であり(「ポリティファクト」調べ)、「実現の危うい空約束」だということを、米国民は「半ば以上知りながら」、それでもトランプ氏に票を投じました。クリントン氏の言葉は現実的で、良識的な信念を語っているかもしれないが、将来への不安におののく人たちには、冷たく感じられたり、頭のいいエリートやエスタブリッシュメント(既得権層)が自分たちの利益を守るためにまことしやかに繕っている、それこそ〝虚偽〟ではないかと疑惑の目を向けたのでした。既成のメディアもそちらに分類され、不信の対象とされたのです。
 まさに「真実後」の困難な社会分断状況に、言葉が晒されているといえます。では、言葉が力を失ったのか、無力であるのか、といえば、そうではないでしょう。空転する言葉によって引き起こされた混乱は、やがて言葉自身がそれを修復し、平衡への軌道を生み出すはずです。それを妨げる動きに対して、私たちが対応を間違えさえしなければ。
 英米の教訓は日本にとって他人ごととは思えません。私たちも政治の言葉、経済の言葉、日常の言葉、等々との新たな関係を考える時期に来ているような気がします。もやもやした不安、いわく言い難い違和感を解消し、社会をふたたびつなげてくれる言葉。生きている身体的な感覚にフィットした新たな表現を手にしたいという欲求が世の中のあちこちに生まれているように思えます。揺らぎは、再編成への希望でもあるはずです。解決法は用意できませんが、せめてその心構え、身構えを今回の特集で考えようとしました。
 杉本圭司氏の連載「小林秀雄の時」が今号で最終回となります。代わって田中ゆかり氏の新連載「読み解き 方言キャラ」がスタートしました。(和)

バックナンバー

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雑誌から生まれた本

考える人とは?

産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースは plain living, high thinking(=シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)という言葉を書き遺しました。工業化と都市化の急速な進展のなかで、イギリス人が本来持っていたはずの plain living, high thinking を人々が失いつつあるのではないか、とワーズワースは感じ、嘆いたのです。

 ちょうどその頃、ロンドンに留学していた夏目漱石も、イギリス人が環境汚染に悩まされ、都市生活がもたらす不安とストレスにさらされる様子を見て、そこに日本人の未来像を予感していました。

 私たちの暮らしも生き方も、産業革命後の世界の上に成り立っています。さらに、IT革命という新しい大きな変革の波の上に私たちは浮遊しています。漱石の予感を上回る変化のなかで、私たちは生きているのです。

 暮らしにはモノも情報も溢れている。私たちが日々のなかで「考えている」のは、ほんとうに自分が考えたことなのか、疑い始めるとなんだか怪しくなってくることもあります。溢れる情報の何を選択し、何を捨てるのか。暮らしに大切なこと、不要なモノをどう判断すればいいのか。大きな変革の波は、私たちの生活に、頭のなかに、じわじわとしみこみ始めています。その大きな波のなかで自分の船をどのように漕ぎ出せばいいのか、途方に暮れることも少なくありません。

 ものの考え方と暮らしはウラとオモテのようなもの。暮らしぶり、生き方と無縁の「ものの考え方」はないはずですし、「ものの考え方」はその人の日常から切り離すことはできないはずです。plain living があってこその high thinking であり、high thinking あってこその plain living なのです。

 私たちは今ふたたび、ワーズワースの言葉を頼りにして、自分の頭で考える力を問い、シンプルな暮らしを考えるべき時間と場所へたどり着いたのかもしれません。

 たまにはテレビを消して、身の回りも整理して、一人の「わたし」に戻り、自分の言葉と生活を取り戻したい。溢れるモノや情報をいったんせき止めて、ひと息つきたい。思考する頭に新鮮な空気を送り込みたい。そんなあなたのために用意する、小ぶりの静かな部屋に季刊誌「考える人」はなりたい、と考えています。

創刊編集長 松家仁之(まついえ・まさし)

雑誌主催・共催・発表誌の文学賞

考える人

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