営業担当役員の伊藤幸人です。
私立灘高校といえば、東大合格者を毎年多く輩出する関西の超名門難関校として知られます。しかし灘高校の特徴は、単に受験に強いだけではありません。将来の真のエリートを育てようという方針から、ユニークな教育を行っていることです。その一つが、春休みなどを利用して、社会の第一線で活躍している「人生の先輩たち」で学生たちが会ってみたいと思う人を訪ねて、意見交換をするというプロジェクトです。その対話を書籍化した第一弾が、
佐藤優さんの『
君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話―』でした。
次に灘高生たちが会ってお話を聞きたいと希望したのが、
五木寛之さんです。五木さんはこの9月に86歳を迎える、いまなお現役のベストセラー作家です。年の差まさに70歳。デラシネ(根無し草)のエンタメ作家を自称する老大家と、国家、社会の担い手たらんとする優秀な高校生という異色の組み合わせ。面白くないはずはありません。
何と言っても、灘高生たちへの五木さんの語り口が絶妙です。人生の不条理を凝視して、魅力的な小説やエッセイに書いてきた五木さんが、若きエリート候補生たちに解くのは、「人生のピンチからの脱出術」です。どんなエリートであっても、人生には挫折や苦難がつきものだからです。エリートだからこそ、この世を「上から目線」ではなく、裏街道を含めて素直に見てほしい、という五木さんの思いが籠っているようです。そして、人生や社会は非情に満ちているが、「それでも、なぜ人間を信頼するのか」を五木さんは豊富な実体験に基づいて語っていきます。切々たる五木節には、高校生ならずとも老若男女誰もが引き込まれることでしょう。『
七〇歳年下の君たちへ―こころが挫けそうになった日に―』は、五木さんは初めてという高校生・大学生も昔からの五木ファンも、そして、しばらく五木作品から遠ざかっていたという読者にも是非読んでいただきたい1冊です。