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老数学者と十歳の少年を結びつけるために、この小説には野球が必要だ、と思いついた時すぐさま、彼ら二人が肩を寄せ合い、ラジオにじっと耳を澄ませている情景が浮かんできた。
静かな食堂に流れる、野球の実況放送。タイガースが得点を入れ、わき上がる歓声。顔を見合わせ、微笑を交わす博士とルート少年。そんなささやかな瞬間に、かけがえのない喜びを見出す家政婦さん……。
彼らの心が触れ合う場面で、きっとラジオが大事な役割を果たしてくれるに違いないと確信した。ラジオドラマ化のお話をいただき、迷わず了承の返事をしたのは、この小説とラジオが密接な関係にあると、分かっていたからなのだ。
博士と、家政婦さんと、ルート君の声が聞こえてきた時、懐かしい気持になった。小説を書いている間、ひとときも離れず私の胸にあった登場人物たちの体温が、よみがえってきたからだ。
自分の書いた一冊の本が、新しい出会いを経て、こうしてまた別の姿に生まれ変わった。「博士の愛した数式」は、本当に幸運な小説である。
最後に、うれしかったことをもう一つ。私の大好きな八木裕さん、亀山つとむさんと、このような形でご一緒でき、作家としてだけでなく、タイガースファンとして、大きな充実感に包まれている。 |
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