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2010年2月号

世界ぐるっとほろ酔い紀行
西川治

世界には、国の数だけさまざまな酒、肴があるのだ! 棚田のゴザの上で汲み交わすインドネシアの椰子酒。スウェーデンの世界一臭い缶詰とアクアビット。ポルトガルの海辺、鰯を肴に赤ワインをぐびり。西部劇を気取り一気飲みするアメリカのバーボン。産地でしか飲めない濃く甘い紹興酒。父の好きだった肴と日本酒が呼び起こす思い出――。写真と共に綴る40年に及ぶほろ酔い旅の記録。


新潮文庫編集部/外国では、まず酒を飲むべし!?


 四十年以上前から世界中を旅してきた、ベテランカメラマンの西川治氏。旅先での一番の楽しみは、やはりその国特有のおいしい酒と肴に出会うことだ、と彼は言います。その飲酒歴はなんと四歳から(!)というから筋金入り。そんな氏が、これまで旅した国で飲んださまざまな酒の記録が、『世界ぐるっとほろ酔い紀行』という新潮文庫になりました。
 ベトナムでは、ビアホイ(ビール)のつまみにビットロン(孵化しかけの卵)という珍味を食べてみたり、インドネシアでは、小さな虫のうごめく椰子酒まで飲んでしまいます。
 もちろん、ゲテモノばかりではありません。イタリアで満腹の食事のあとに飲むグラッパの至福を味わい、ギリシャでは青い海を眺めながらウゾーを。スペインのバル巡りでは、何種類ものタパス(おつまみ)を堪能。そんな羨ましくなるようなエピソードも多々あります。
 そして今回の本のために、西川氏は新たに海外取材を敢行しました。行き先は、中国の浙江省、紹興市。そうです、本場の紹興酒を飲みに行こうというのです!
〈紹興にはぼくのイメージがあった。
 街全体が紹興酒の噎せるような香が漂う水郷で、酒の入った漆喰塗りの瓶を運搬している船の行き来する運河が、縦横に張り巡らされている〉
 しかし、紹興に着いてみると、想像していた水の郷里とは全く異なり、ビルの立ち並ぶちょっとした都会だったのです。いきなり失望を味わった西川氏ですが、そこは旅慣れたもの。さっそく町歩きに繰り出します。
 紹興といえば、紹興酒だけではなく「魯迅の生まれた町」としても有名です。まずは、魯迅の小説『孔乙己』に出てきた「咸亨酒店」という有名店の紹興酒を味わいにでかけます。
 ところが、観光客でごったがえす店内、事前に購入したプラスチックのカードで酒肴を買うというシステムには、魯迅の小説にあった風情などみじんも感じられません……。しかし、日本で飲むものとは違う、重く澱んだような色の紹興酒を口にした瞬間――!
「少なくとも十日ぐらいは滞在しなければ、その町の魅力はわからないよ」という西川氏は、その言葉どおり紹興周辺を何日も探索して、さまざまな種類の紹興酒を味わい、変わった場所を見つけ、その土地の魅力を発掘していきます。
 そうして訪れた安昌古鎮という小さな水郷の町で出会ったのは、西川氏と同世代の老人たち。はじめは無口だった彼らとも、一つのテーブルについて酒を酌み交わすうちに、筆談でのなごやかな会話が始まります。
〈今まで日本と中国で、どのような軋轢があったかは多少は分かっているつもりだ。ここにいる四人は少なくとも、ぼくと同じような時代をくぐりぬけてきた。彼らといろいろな話をしたいとおもった〉
 言葉が通じなくても、育った背景が異なっても、盃を交わすことで、心を触れ合わせることができる。外国でお酒を飲むということは、そういう喜びも教えてくれるのかもしれません。
 海外旅行の好きな方、外国のお酒やグルメに興味をお持ちの方はもちろんのこと、お酒の飲めない方にもぜひ読んでいただきたい作品です。西川氏の手による、各国の美味なる酒、つまみの写真もたっぷり収録しております。

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