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立ち読み

2010年9月号

ストーリー・セラー
有川浩

このままずっと小説を書き続けるか、あるいは……。小説家と、彼女を支える夫を突然襲った、あまりにも過酷な運命。極限の選択を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた――。「Story Seller」に発表された一篇に、単行本のために書き下ろされた新たな一篇を加えて贈る完全版!

ISBN:978-4-10-301873-5 発売日:2010/08/20

立ち読み 書評

1,365円(定価) 購入



[有川 浩『ストーリー・セラー』刊行記念対談]
湊 かなえ×有川 浩/読者がいるから生まれた小説



手紙の背徳感/書く人と読む人/作家というお仕事

  手紙の背徳感

 『ストーリー・セラー』読ませていただきました。有川さんのセカンドシーズンの最高傑作じゃないでしょうか。
有川 ありがとうございます。この作品は私の中では変化球な位置づけなんですけども。話自体、雑誌『Story Seller』がなかったら生まれなかったので。
 本当に面白かったです。トランポリンの上に着地するというか、Side:Aを読み終わって、自分では地面に着地したつもりが、足場のフワフワしたところに降りて、すぐまた違うところに連れて行かれたような感じがしました。途中でもトランポリンジャンプみたいに話がポーンと飛ぶことがあって、「ちょっと待ってよ」って。
有川 ありがとうございます。ちゃんと楽しいところに連れていけてたら嬉しいです。湊さんの新作『往復書簡』(幻冬舎 九月下旬刊)も本当に面白かった。この作品は往復書簡形式で構成されていますが、今はメールで全部済んでしまうので、手紙である必然性をつくるのは大変だったんじゃないですか。
 そうですね。今は携帯とか何でもあるので、状況設定を最初にきちんと固めておかないといけなかったですね。
有川 『往復書簡』は毎回手紙である必然性がきちんとあって、それが不自然じゃなく展開されているのがきめ細やかだと思いました。手紙の世界に引き込まれるんです。
 現代において、手紙で小説を成立させるのは難しいですね。違和感のない設定を工夫するのが大変でした。
有川 手紙だけで構成されているんですけど、湊さんのトリッキーなところはそのまま残ってますね。一通やりとりするごとに次はどこに連れていかれるのか楽しみでした。それに女同士の友情の裏側のドロドロしたところとか、「あっ湊かなえだ」って。私は、前から湊さんに恋愛小説を書いて欲しいってお願いしていたんですが、これ、ついに湊さん初の恋愛小説じゃないでしょうか?
 今回、往復書簡形式で中篇を三本ってなったときに、恋愛を一本は絶対入れたかったんです。あとは、恋愛小説でもあり、ミステリでもある小説ってあまりないので、自分で書こうと。
有川 手紙のやりとりが進んでいくに連れて、恋愛度が上がってくる。また、繋がると思わなかったラインが、思いがけず繋がる面白さがありました。それに、人の手紙を盗み見しているような背徳感もありつつ、ズルズル読まされてしまう。昔、実家が引っ越しをする時に手伝いをしていて、父と母が若い頃やり取りした手紙を見つけたことがあります。誘惑に抗えず読んじゃったんですが、そのときの感じに近い。
 私も父親が出張中に母親と交わした手紙を読んだことがあります。両親の知らない一面が見えて。
有川 手紙に書かれている思いって抑制されている分だけ熱っぽいというか、秘めた情熱がありますよね。この作品も最後は本当に直球の恋愛ものでした。
 普段書けないことが書けるのが手紙かなぁと思って。
有川 メールよりも特別な感じがしますよね。
 届くのに数日かかるので、あんまりその日だけのことも書けないし、本音を言ったり、駆け引きをしてみたりするには、ちょうどいい期間なのかもしれないですね。メールだと駆け引きをしてもすぐに返事が来ちゃう(笑)。
有川 手紙って、誰でも手がつけられる身近なエンターテイメントなんですよね。
 そうですね。小説を書いたことがある人は限られても、手紙はみんなありますね。そういえば『ストーリー・セラー』のSide:Aも最後手紙ですよね。やっぱり大事なことは手紙ですね。
有川 メールも、もらったら嬉しいですけど、手紙ってより嬉しいですよね。『往復書簡』は本当に最後が凄い。読めば読むほど恋愛度が上がってるんで、私としては食いついた後に、釣り針の糸を巻かれて釣り上げられていく感じでした。
 有川さんがかかってくれたら嬉しい。
有川 完全にヒットって感じです(笑)。

  書く人と読む人

有川 今回の『ストーリー・セラー』は若干ホラーのつもりだったんですが、純愛ものと言われることが多いんです。
 私は泣きましたよ。Side:Aは主人公が自分と同じ職業なんで、お仕事小説という感じで読んだんです。彼女が作家になってからのエピソードがどれも当てはまって、「そう、そう。頑張れ、頑張れ」って。でもSide:Bを読むと、両方読むことで究極の選択を迫ってる。読み終わったあとに、凄く考えさせられました。
有川 書き下ろし分では、作家が恋に落ちるシチュエーションってなんだろうって考えて。あれなら私は確実に落ちるなと思って。
 絶対落ちます。私は電車の中で誰かが偶然読んでいる本が自分の本だったらいいのになって。まだ経験が無くて。
有川 実際に遭うと物凄い挙動不審になりますよ(笑)。私はいろんなジャンルを書くので、年配の方がはっちゃけた作品を読んでたりすると、嬉しい半面心配になります。
 「あー作家になってよかった。今日のために書き続けてきたんだ」って思いますよね。実は、自分の本を買ってくれている人が見たくて、本屋で張り込みをしたことがあるんです。やっぱり見ず知らずの人でも読んでくれたら嬉しいし、ましてや偶然読んで好きっていってくれたのが自分の本だったら、もう二十年くらい頑張れます。
有川 私たちって言葉に対する執着心が強いと思うんです。いい言葉も悪い言葉も強く入る。だから「面白かったです」の一言ですごく救われる。
 今回はお互いに書くことにこだわった小説ですからね。これを読んで手紙を書きたくなりましたって言ってもらえたら、嬉しいなぁ。
有川 私は、書いた後、誰かに読んでもらわないと完結しないんです。だからお客さんを意識することで精度が上がる。やっぱり書く人単体では存在できない。読む人がいるから書けるんです。読む人は同時に「書かせる人」でもある。
 本は書く人じゃなくて、読む人のためにあるんですよね。今回の書簡形式も担当編集の方に投げてもらって、あぁ書いてみたいって思って。自分の可能性が広がる感じがして好きなんです。
有川 『ストーリー・セラー』もアンソロジーに誘ってもらえなかったら生まれなかった話でした。編集者は書かせる人のプロだから、お互いに、いい刺激をもらって作品ができましたね。
 本当に一言でアイデアが泉のように湧き出ますもんね。私は今でもメールで原稿送ったあとは、大学の合格発表みたいにドキドキしています。
有川 私は逆に、「どうだった!?」とせっつく感じです。没の可能性は考えもしない(笑)。
 それは旦那さんにすでに見せているから?
有川 確かに。自宅で下読みが終わっているから、担当さんに出すときは安心して出せるのかもしれません。うちの旦那は最初の読者で、最初のファンなんですよ。書く人間としてはすごい恵まれたパートナー。
 支えてくれる人がいるのは有難いですね。『ストーリー・セラー』は本当に読者の方、作家の方、出版社の方、本に関わるすべての人に読んで欲しい。

  作家というお仕事

有川 先ほどお仕事小説って言っていただいたんですけど、作家って小説を書ける代わりに思いがけない苦労が多い仕事ですよね。
 そうですね。
有川 私は七年かけてだいぶタフになりました。
 私も今日がちょうどデビュー丸二年なんですけど、二年間でかなりタフになりました。
有川 湊さんもそうだと思うんですけど、作家という職業以外にも、きちんと自分の立ち位置を持っているかが、安定して作家活動を続けていける秘訣な気がしてるんです。
 そうですよね。もう作家やめたらご飯が食べられなくなっちゃうとか、生きていく糧がなくなってしまうとかだと、やっぱり負担は大きいと思います。私は作家が全てではないので、人生の三本柱というか、日常生活と好きなこととそして作家があるという感じです。三つ柱があったら、一本壊れても他の二本で支えていけますから。
有川 その間に再建していけたらいい。でもほんとに要らんトラブルは多い(笑)。
 取材でも「やりたいことを好きなようにやって、それが本になって、楽しい仕事ですね」って言われるんですけど、そんな楽しいことばかりじゃない(笑)。
有川 ファンレターとかで、将来作家になりたいという人から手紙が来たりしませんか。
 よくあります。「将来、弁護士か医者になるか、それとも作家になるか迷ってます」という人もいました。
有川 お願いだから医者か弁護士になって!(笑)
 作家を目指すなら頑張ってとは思うけど、それだけを目指しちゃ駄目ですよね。学生なら勉強を頑張ってほしいし、きちんと就職もしてほしい。それでも書くのが好きなら何か書いて投稿してみたらって。作家だけを目指すとしんどいんじゃないかなって思います。
有川 日常の生活を大事にしたほうが、作家になるには近道ですよ。文章修業とかあまり意味ないです。私の無茶な文章でも作家になれるんだから(笑)。
 『ストーリー・セラー』のSide:Aって作家になる過程が描かれていますよね。仕事をしながら、小さいパソコンを買う。そこにきちんと日常生活があって。 
有川 小説に想像力だけで片付く問題はあまり無いような気がします。たとえファンタジーを書いたとしても、そこに裏打ちをするためには人生における経験が必要になってくるし。自分にそれがなかったら見聞を広めて勉強する努力をしなくちゃいけない。書く作業の裏側に、表に出ない地味な作業がいっぱいあります。 
 手さえ動かしていたら、あとは頭の中から湧き出る泉を形にすればいいだけじゃないですからね。
有川 私の場合、キャラクターの行動に整合性がないと書けないので、行動をシミュレートするために、日頃から人間に興味を持って観察する作業が重要になります。作家になってからのほうが勉強するようになりました。
 私も物事を決め付けないようになりました。以前は割と我を通すほうだったんですけど、今は違うかもしれないと思いながら考えるようにしています。
有川 作家って総合商社みたいなものかもしれない。自分の人生で見聞きするあらゆることが仕入れ。仕入れた素材で物語を作って出荷する。
 それに地盤を固めておかないと、個人の仕事だから、結局、家族や周りに迷惑かかったりしますからね。つぶれてしまいそうな時に、今まで自分が固めてきたものが支えてくれる。生活していくのに、電気代がいくらかとか、経済観念がなくちゃいけないし、社会に出ていろんな人と触れ合うことが大切です。
有川 本当に作家になって続けていくのは宝くじに当たるようなものですからね。だから当たった時にちゃんと立ち回れる準備ができてるかどうかが大事だと思う。そのためには、いろんなことを経験しておくことが大事ですよね。お母さんがご飯作ってくれることを有難いと思ったり、友達と遊んだり、おしゃべりをしたり、一生懸命勉強したり働いたり。そういった地に足のついた現実的な部分が一番大切なのかもしれませんね。

(みなと・かなえ 作家/ありかわ・ひろ 作家)

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