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心を動かされた、校閲者のお仕事エピソード「“いい本”ができるとよかったなと思う」

「新潮社の校閲部は“神部門”と呼ばれているらしい」「校閲界の東大だ――」

 10月5日から出版社の校閲部を舞台にしたテレビドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)の放送が始まった。それにより、出版業界でも「超一流」と高く評価されている新潮社の「校閲部」に注目が集まっている。すでにブログやツイッターなどのSNSで取り沙汰されているほか、情報番組「ZIP!」をはじめ「読売新聞」、「サイゾーウーマン」、「デジタルTVガイド」といった様々な媒体から取材依頼が寄せられているのだ。
 現在、新潮社の校閲部には男女60人が在籍し、連日、あらゆる発行物の校閲作業に当たっているが、数ある出版社校閲部の中でも、とくに彼らに熱い視線が注がれるのはナゼなのか。過去に「週刊新潮」に連載された、ミステリー小説における担当者の指摘を見てみよう。

〈東京から名古屋まで、自動車では高速道路を利用してもこの時間には到着しません〉
〈主人公の自宅がマンションの1階に設定されていますが、前作の住まいは2階でした。(引っ越したのでしょうか?)〉


 このように、新潮社校閲部のチェックは誤字や脱字の校正に留まらず、時には描写内容にまで踏み込んで、その事実関係までフォローする。そうした徹底した仕事ぶりは、これまで多くの作家やジャーナリストから絶大な支持を得ており、それこそが先の“熱い視線”の理由と言えよう。一種の職人集団だが、その“棟梁”は校閲者歴30年という飯島秀一部長だ。
「漢字や語学だけでなく、歌舞伎やパチンコなど、どんな知識でも仕事に生きてきます。また、確認すべき点かどうかを見極める“勘どころ”の有無も校閲者には重要ですね」
 評論家の徳岡孝夫氏も、そんな彼らに全幅の信頼を寄せる1人。
「新潮社の校閲部は、言わば出版界における“一匹の鬼”。決して間違いを許さない姿勢には、常々敬服しています。だから僕は、過去に何度か(文化活動における業績を称える)菊池寛賞に推薦したこともあるんですよ」
 僭越ながら、出版業界の“宝”と言うべきかもしれない。



校閲者に聞きました! 心を動かされた、お仕事エピソード

<Yさんの場合>
「著者の作品に対する思い入れ、熱意に感動した」という、Yさん。
 著者校正(著者自らがゲラ(校正刷り)に赤字(直し)を入れること)の済んだゲラは、赤字で真っ赤でした。
 赤字の直しは本当に隅々まで入っていて、それはそれは大変なもので、こちらも頑張らなければと奮い立たされるものでした。
 それだけでは終わりませんでした。後日、著者が「文章には自信がないので、“血染めのゲラ”と担当編集者さんに言われるほど、赤字を入れてしまいました」とわざわざお詫びに来られたのだそうです。非常に礼儀正しく、ていねいな女性で、女子力の塊のような方と著者の印象を語られていました。素敵な方ですね。
 最後に「実は……」と言いかけたYさん。「いよいよ〆切間近の時に私がインフルエンザにかかってしまい、仕上げはほかの部員が代わってやってくれたんです」というトホホなエピソードを話してくれました。これもまたこの作品に携わった思い出のひとつになったことでしょう。
 ひとつの作品を世に出すまでに作品と密接に関わるからこそ見えてくるものがあるようです。著者の作品に対する熱意、著者の人となり……。校閲の仕事は誤字脱字のみならず、事実確認に至るまで多岐にわたります。発売日が決まっているので限られた時間の中で校閲が求められます。
「大変だけど、“いい本”ができるとよかったなと思う」と満面の笑みでYさんは言いました。
 Yさんのデスクの上には校閲中のゲラと赤ペンが置いてありました。

■Yさんが校閲した本:押切もえ『永遠とは違う一日』


<Uさんの場合>
「感動して涙が溢れ、ゲラが読めなかった」と語るのはUさん。
 著者が紡ぎ出す描写がとても美しく、宝石のような文章だったそうです。なかなか涙を流しながら校閲をすることはないというUさんはこの本の校閲に携わることができてよかったと満足そうに語ってくれました。

■Uさんが校閲した本:アンソニー・ドーア、藤井光/訳『すべての見えない光』



校閲部のお仕事事情が分かる本をご紹介!

その日本語、ヨロシイですか?
井上孝夫/著

川端康成『雪国』の有名な冒頭の一文、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」。さて、この「国境」の正しい読み方は「こっきょう」? それとも「くにざかい」? そして 「チゲーよ!」はなぜおかしい? などなど日々「正しい言葉」探しに格闘している新潮社校閲部・前部長が、奥深〜い日本語の世界にお連れします。