お知らせ

人生にも踏絵はあり、それを踏んでしまうのが人間なのだ。

 マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙―サイレンス―」を観てきました。強烈な暴力描写とエモーショナルな語り口(と自身の早口)で知られた監督ですが、ここではあくまで静かな声とゆったりした品のある口調で、イエズス会司祭ロドリゴと隠れキリシタンたちと取り締まる役人たちの葛藤が語られます。多くの日本人俳優がそれぞれ強い印象を残しますが、とりわけ宗門改役の井上筑後守を演じるイッセー尾形さんが出色の演技で、彼が出ている場面を全てかっさらっていました。
 スコセッシ監督は原作である『沈黙』(Picador版)に序文を寄せ、作者の遠藤周作さんをグレアム・グリーンやフランソワ・モーリヤックやジョルジュ・ベルナノスと並べて「二十世紀の偉大な小説家」と呼んでいます。
 その遠藤さんが、まさにグリーンやモーリヤックやベルナノスなどを論じ、『沈黙』や『』など自作の裏側を明かした講演集が『人生の踏絵』です。講演上手な作家らしく、ユーモアと例え話を活用しながら、実にわかりやすく、具体性に富み、面白く深く豊かに「人間と神」「人生の救い」を説いていきます。二十年にわたり折りに触れて行われた名講演、初の活字化です。

波 2017年2月号「新潮社の新刊案内」より

著者紹介

遠藤周作エンドウ・シュウサク

(1923-1996)東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955(昭和30)年「白い人」で芥川賞を受賞。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多数ある。主な作品は『海と毒薬』『沈黙』『イエスの生涯』『侍』『スキャンダル』等。1995(平成7)年、文化勲章受章。

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