お知らせ

十七歳の出会い。

 今から六十三年前、ローマ在住の作家、塩野七生さんは都立日比谷高校の生徒でした。その学校図書館で、塩野さんは一冊の本に出会います。ホーマー著『イーリアス』(土井晩翠訳)。古代ギリシアの長編叙事詩です。
 十七歳の女子高校生だった塩野さんは夢中になって『イーリアス』を読みふけり、古代ギリシア人が〝葡萄酒の海〟と呼んだ地中海への憧れを募らせました。「彼女は〝ギリシア風邪〟に罹ってしまった」と周囲が心配したほどだそうです。
 「一度は地中海を自分の目で見てみたい」と願い続けた塩野さんは、二十六歳の時ついにヨーロッパに渡ります。当時のフィアンセとは「一年だけ」という約束をして出発したそうですが、塩野さんは結局今日までずっとヨーロッパで生活しています。一九六八年、ふとしたきっかけで「ルネサンスの女たち」と題された文章を発表します。作家になるつもりなどなかった塩野さんは、本名でデビューしました。
 それから五十年間。塩野さんは歴史を「調べ、考え、再構築する」という歴史エッセイを書き続けてきました。西洋史の栄華ルネサンスを描き、『ローマ人の物語』という大ヒット作品を生み出し、「暗黒」と評されてきた中世に光をあてたのち、「歴史エッセイとしてはこれで最後」と決め、『ギリシア人の物語』全三巻を書き上げました。古代、中世、ルネサンスにいたる約二千五百年間の西洋史をたった一人で書ききったことになります。

 十七歳の少女に夢と勇気を与え、人生をも変えてしまった、一冊の本とのかけがえのない出会い――。
 今年も新潮社は「特別な一冊との出会い」をお届けしてまいります。

書籍紹介