YOMIMONO 読み物 小説、エッセイ、著者インタビュー、等々。新潮文庫nexが贈る特別コンテンツ。
2016年1月26日 12:52
『仮面病棟』「天久鷹央(あめくたかお)」シリーズがともに20万部を超えるなど、いま最も勢いのある作家、知念実希人。現役医師の知見を活かした医療ミステリーを続々と発表する著者が、自身の作品について語った。

――『天久鷹央の推理カルテ』は、不可思議な事件の原因が、実は身近な“病気”にあることがわかるメディカル・ミステリーですね。
知念 「天久鷹央」シリーズで起きる怪奇現象は、一見ありえないものですが、解答として提示されるのは全て実際に起こり得る“病気”です。“こんな症例があるのか!”という驚きを作る一方で、病院、医学、病の様々な側面を描き、楽しく勉強できる小説を目指しています。
――探偵役の天久鷹央が非常にユニークなキャラクターです。
知念 この作品は、自分が学生時代に読んで好きだった「シャーロック・ホームズ」や「御手洗潔」といった名探偵のシリーズを受けて書いた、僕にとっての本格ミステリーです。医学的なリアリティを追求しつつ、天才医師である鷹央のキャラクター性や会話のやり取りには、気を配っています。書いていて、楽しいシリーズですね。
――一方、『仮面病棟』は病院で起こる籠城事件を描いた医療サスペンスです。密室と化した病院での息詰まる心理戦に圧倒されます。
知念 『仮面病棟』は、とにかく勢い良く読める小説にしたかった。少ない登場人物。どんどん転がる物語。速くぺージを捲らせたい、一気読みしてもらいたい、との気持ちで、いろいろ工夫を凝らしています。いちばん苦労したのは、病院の構造ですね。文庫には各階のフロア図がついていますが、事件と構造に矛盾がないよう、何度も練り直しました。
――啓文堂文庫大賞で1位に輝くなど、書店員さんに支持されています。
知念 ありがたいことです。刊行から一年後に火が付いたのも、そうした書店員さんの力があったからだと思います。“実際にこんなことが起こりますか?”と聞かれたこともありますが、夜の療養型病院というのは、独特の雰囲気があって、何かが起こりそうなんです。そんな空気を、物語として昇華させています。
――療養型病院といえば、「天久鷹央」の第2巻でも登場していますね。ただ、描かれている雰囲気は、少し違う印象です。
知念 「天久鷹央」シリーズは病院の明るい側面、表の部分を書こうとしています。患者さんと接し、診断を下す医療の現場ですね。他方、『仮面病棟』では病院の裏の顔、医療の負の部分に踏み込んでいます。療養型病院の扱いの違いは、後者で起きる事件が医療問題の深いところと密接に関わっているからです。
――知念作品を初めて読む方には、どちらがオススメでしょうか。
知念 どちらから読んでも楽しめる物語として書いていますし、どちらかを「面白い!」と思っていただけたなら、ぜひもう一方も手に取ってもらいたいですね。医療ミステリーの様々な面白さを、体感してもらえると思います。
(2015年12月 新潮社にて)
知念実希人Chinen Mikito
1978(昭和53)年、沖縄県生れ。東京慈恵会医科大学卒業。2004(平成16)年から医師として勤務。2011年、「島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を「レゾン・デートル」(『誰がための刃』と改題し、2012年刊行)で受賞。医学的知見を生かしたミステリー作家の新星として注目されている。他の著書に『ブラッドライン』『優しい死神の飼い方』『仮面病棟』などがある。