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受賞のことば

約束は今も「片想い」

ツタの学園。「秋の大三角」の主人公・榊里沙が通う女子校です。中高一貫で、一学年が百四十四人。こぢんまりとしています。
私がかつて通った中高は、この学校に少しだけ似ています。だからかもしれません。賞をいただいたとき、一人の同級生のことが、ぱっと頭に浮かびました。
母校はツタの学園と同様、小規模でした。毎年組替えがあったので、高校を卒業する頃には、学年全員の顔と名前が一致するようになります。でもたった一人だけ、在学中に一度も会話を交わさなかった同級生がいました。クラスも部活も違って、六年間まったく接点がなかったのです。そのHさんは、髪が長くて穏やかな目をした人でした。学年トップの秀才で、東大に進学。ますます縁遠くなりそうな予感がしていました。
けれどその一年後。同窓会の後、私たちは共通の友達がいたことから、二次会で合流しました。十人ほどのグループで喫茶店に入って、私は偶然、Hさんの隣の席に。
「元気?」
「うん。しゃべるの、初めてだね」
最初は、ぎこちない雰囲気でした。それでもHさんは、前から話してみたかったんだ、と言ってくれました。優等生の彼女から見れば、いつも不機嫌な白猫みたいに拗ねた顔をしている私が興味深かったのかもしれません。
それから毎年、同窓会の後は喫茶店でHさんと話をするようになりました。申し合わせたわけではないのに、なぜかいつも。
皆が大学を出て社会人になる頃、Hさんは司法試験に合格しました。
「私、判事になろうと思うの」
まるで別世界。彼女がまぶしく見えました。
「で、吉野さんは?」
彼女の将来を教えてもらったんだから、自分も答えなきゃ……。私はそれまであまり人に話したことのなかった夢を、つい告白してしまいました。
「いつか、小説を書きたいと思ってる。伝えたいテーマが見つかったら」
当時はまるで現実味がなくて、話していて気恥ずかしくなったのを記憶しています。でも、Hさんは微笑んでくれました。
「読んでみたいな。いつかきっと見せてね」
こんな頭のいい人が楽しめるものを、果たして書けるのかな。不安を抱きつつも、背中を押してくれた事がうれしくて、私はうなずいていました。
しかし、それから数年後――。ある日、別の友達から電話が掛かってきました。涙声。
「Hさんが、亡くなったの」
思えばその半年以上前。同級生の結婚式で最後に会ったとき、彼女は体調が悪いと語り、少し憂鬱そうだったのです。その頃から病魔に冒されていたらしい、と後で聞きました。
時は流れて、ようやく私は小説に注力するようになりました。そして、それに可能性を見出してくださった方たちが現れました。なのに、Hさんとの約束をこういう理由で果たせないとは、当時は考えてもみませんでした。読んでみたいな。そう言ってくれた彼女の声が、耳に残っています。
生命(いのち)を終えた人は、どこに行くのでしょう。新しい世界なのか、永遠の暗闇なのか。想像もつきません。でも、この世の先はこうであったらいいな、という願いを小説に織り込みました。
もっともこの作品には、そんな思い入れとは裏腹に、至らない部分もありました。選者の石田衣良さんには、授賞式の際に課題点を指摘していただきました。そしてたくさんのアドバイスも。この新人賞に応募してよかった。改めてそう思った瞬間でした。
現在、単行本化に向けて原稿に手を入れています。いただいた言葉を吸収して、より明確にメッセージを伝えられるよう、悪戦苦闘中です。それがこの宙のどこかにいるHさんにも届くと願って……。
さて、最後に。お礼の気持ちを伝えたい人はまだまだいます。選考に携わられた皆様。受賞後、目をかけてくださっている方々。ありがとうございます。それから友達。身内の皆。そして以前、創作について真摯な助言をくださった大先輩へ。変わらぬ感謝の想いを込めて。

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