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受賞作品
「月のころはさらなり」 井口ひろみ


受賞のことば

書くことしかなかった 受賞の連絡をいただいたのは、末妹の誕生日でした。携帯電話を握りしめたまま、会社の廊下に座りこみながら、妹のおかげだ、まなみが助けてくれたのだと、思わずにいられませんでした。
「そんなに本が好きなら、ひろみは大きくなったら本を書く人になるかもね」と、母から作家という職業を教えてもらったとき、私は八歳でした。
暗示にかかりやすい子供だったらしく、それ以来、物語を考える癖がつきました。初めて最後まで書き上げたのは、中学一年生になってからです。学校生活に適応するのが下手だった私は、多分そのおかげで、うまくいかない現実と折り合っていくことができました。成人して、どうやら思ったよりも自分には書く能力がないらしいと悟った後でも、書く楽しさは変わりませんでした。
一度だけ、投稿した小説が最終選考まで残ったことがあります。生まれて初めて人から評価され、有頂天になった私は、力みすぎてかえって書けなくなりました。恐ろしい勢いで月日は流れ、気がつくと仕事しか見えない毎日を送っていました。子供の頃よりも選択肢は増えたはずなのに、いくら考えても、私は書くこと以外に自分が幸せだと感じる方法を見つけられませんでした。いくつかあったアイディアの中で、この話を選んだのは、結末は見えていないものの、これなら多分、終わりまで書けると思えたからです。



選評

宮部みゆき

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