新潮エンターテインメント大賞



第三回新潮エンターテインメント大賞




受賞作品


「月のころはさらなり」 井口ひろみ



受賞のことば


書くことしかなかった
 受賞の連絡をいただいたのは、末妹の誕生日でした。携帯電話を握りしめたまま、会社の廊下に座りこみながら、妹のおかげだ、まなみが助けてくれたのだと、思わずにいられませんでした。
「そんなに本が好きなら、ひろみは大きくなったら本を書く人になるかもね」と、母から作家という職業を教えてもらったとき、私は八歳でした。
 暗示にかかりやすい子供だったらしく、それ以来、物語を考える癖がつきました。初めて最後まで書き上げたのは、中学一年生になってからです。学校生活に適応するのが下手だった私は、多分そのおかげで、うまくいかない現実と折り合っていくことができました。成人して、どうやら思ったよりも自分には書く能力がないらしいと悟った後でも、書く楽しさは変わりませんでした。
 一度だけ、投稿した小説が最終選考まで残ったことがあります。生まれて初めて人から評価され、有頂天になった私は、力みすぎてかえって書けなくなりました。恐ろしい勢いで月日は流れ、気がつくと仕事しか見えない毎日を送っていました。子供の頃よりも選択肢は増えたはずなのに、いくら考えても、私は書くこと以外に自分が幸せだと感じる方法を見つけられませんでした。いくつかあったアイディアの中で、この話を選んだのは、結末は見えていないものの、これなら多分、終わりまで書けると思えたからです。


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選評


宮部みゆき



候補作品


月のころはさらなり 井口ひろみ
砂漠に散る白い花 佐藤カナリア
天然オヤジ記念物 江戸前不始末 魚住陽向

選考委員


宮部みゆき ミヤベ・ミユキ

1960(昭和35)年、東京生れ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。1989(平成元)年『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞を受賞。1993年『火車』で山本周五郎賞を受賞。1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞を受賞。1999年には『理由』で直木賞を受賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、2002年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を受賞。2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞した。他の作品に『ブレイブ・ストーリー』『ぼんくら』『孤宿の人』『楽園』『英雄の書』などがある。

大極宮



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