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受賞作品
「ロック母」 角田光代
「群像」 2005年12月号


受賞のコメント

ピアス開けたいんだけどどうすればいいの、と母が言ったのは十年ほど前のことで、私にしてみればそれはたいへん突拍子のない意見であった。そのとき母は六十歳であり、母とピアスというのは幼児と拳銃ぐらいかけ離れた組み合わせであったから。一カ月ほどのちに、ピアスを開けにいこうか、と誘ってみると、母は自分の言葉などすっかり忘れたように「こんなおばあさんがピアスなんて開けたらみっともない」と眉間にしわを寄せた。みっともない、と言うのが私の知っている母で、ピアスを開けたいと願った母は、私の知らない母だった。
なぜピアスなんか開けたいと思ったの、と私は訊き損ねた。だから、母が亡き今、ピアス発言は永遠の謎である。私の知らない母は、私の知っている母がいなくなってからどんどん存在を大きくする。私は今や、母だった人がだれだったのかわからなくなりかけている。
だれだったかわからない母とこの先もずっと関わっていていいのだと、いや、関わっているべきなのだと受賞の知らせを聞いたとき、思った。そういう意味でもうれしかった。ありがとうございました。


〔角田光代氏略歴〕
昭和四十二年神奈川生れ。早稲田大学第一文学部卒業。平成二年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞、平成八年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、平成十年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、平成十一年『キッドナップ・ツアー』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、翌年同作で路傍の石文学賞、平成十五年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、平成十七年『対岸の彼女』で直木賞を受賞。
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