山本周五郎賞



第十六回山本周五郎賞




受賞作品


『覘き小平次』 京極夏彦

中央公論新社


受賞のことば


 かつて草双紙から読本へと展開する本邦の創作文芸の大河の中に「怪談」という太い流れがありました。今回栄えある賞を戴いた『覘き小平次』は、その脈絡を受け継ぐ形で書かれた小説です。
 たとえば、近世戯作の基本的な手法として「本歌取り」が挙げられます。受賞作も、先行する「小平次もの」全てを材料にして作られています。しかしかつての作品群がそうであったように、本作も懐古的・復古的な意図で書かれたものではありません。通俗娯楽小説は常に最先端でなくてはならない筈のものだと考えるからです。
 近代小説のルーツは往々にして海外に求められがちです。しかし現在流通しているエンタテインメント小説の雛形を辿るなら、必ずしもそうとばかりはいえないだろうと私は考えています。大衆小説の直接的な祖型は講談なのでしょうし、狂歌や俳諧などが培った知的遊戯の命脈が近代以降すっかり断たれてしまったとは思えません。
 そうした文脈の中で捉えた時、この度の受賞はいっそう喜ばしく思えます。ありがとうございました。



候補作品


ルール 古処誠二 集英社
コールドゲーム 荻原浩 講談社
覘き小平次 京極夏彦 中央公論新社
黄色い目の魚 佐藤多佳子 新潮社
第三の時効 横山秀夫 集英社
あやめ横丁の人々 宇江佐真理 講談社

選考委員


長部日出雄 オサベ・ヒデオ

1934(昭和9)年、青森県生れ。新聞社勤務を経て、TV番組の構成、ルポルタージュ、映画評論の執筆等に携わる。1973年『津軽世去れ節』『津軽じょんから節』で直木賞、1980年『鬼が来た 棟方志功伝』で芸術選奨、1987年『見知らぬ戦場』で新田次郎文学賞を受賞。おもな著書に『密使 支倉常長』、太宰治を描いた『辻音楽師の唄』『桜桃とキリスト』、『反時代的教養主義のすすめ』などがある。



北原亞以子 キタハラ・アイコ

東京生れ。石油会社、写真スタジオに勤務後、コピーライターとして広告制作会社に入社。その間に、創作活動を開始し、1969(昭和44)年「ママは知らなかったのよ」で新潮新人賞、同年「粉雪舞う」で小説現代新人賞佳作を受賞。1989(平成元)年『深川澪通り木戸番小屋』で泉鏡花文学賞、1993年『恋忘れ草』で直木賞、1997年『江戸風狂伝』で女流文学賞をそれぞれ受賞。他の作品に『まんがら茂平次』『東京駅物語』『妻恋坂』『父の戦地』『誘惑』『あんちゃん』、「慶次郎縁側日記」シリーズなど多数。



久世光彦 クゼ・テルヒコ

1935(昭和10)年東京生れ。東大卒。「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー一族」など多数のドラマ演出を手がけた。小説でも1993年『蝶とヒットラー』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、1994年『一九三四年冬─乱歩』で山本周五郎賞、1997年『聖なる春』で芸術選奨文部大臣賞、2001年『蕭々館日録』で泉鏡花文学賞を受賞。1998年紫綬褒章受章。2006年3月2日虚血性心不全にて70歳で死去。



花村萬月 ハナムラ・マンゲツ

1955(昭和30)年、東京生れ。1989(平成元)年、『ゴッド・ブレイス物語』で小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。1998年、『皆月』で吉川英治文学新人賞を、『ゲルマニウムの夜』で芥川賞をそれぞれ受賞。人間の生の本質に迫る問題作を、発表し続けている。『眠り猫』『なで肩の狐』『鬱』『二進法の犬』『百万遍 青の時代』『私の庭 浅草篇』『たびを』『愛情』『錏娥哢た』『少年曲馬団』『ワルツ』など著書多数。



山田詠美 ヤマダ・エイミ

1959(昭和34)年、東京生れ。明治大学文学部中退。1985年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的なデビューを飾る。1987年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。さらに、1989(平成元)年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、1991年『トラッシュ』で女流文学賞、1996年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、2005年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞を受賞する。他の著書に『ぼくは勉強ができない』『PAY DAY!!!』『ライ麦畑で熱血ポンちゃん』『無銭優雅』『学問』『タイニーストーリーズ』等多数。現代を代表する人気作家である。



ページの先頭へ戻る