女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第16回 受賞作品

王冠ロゴ 友近賞受賞

伊藤万記

「月と林檎」

伊藤万記

――受賞の知らせを聞いて、まずどう思われましたか。

 まず思ったのは、これでまた改稿できるな、ということでした。応募までにさんざん直してきたはずなのですが、最終候補に残していただいた時点で読み返すと、単純ミスも含めて気になる点が色々出てきてしまって。入賞すれば誌面に掲載される際に少し書き直せるだろうと思ったので、ああ、これでまた改稿できるなと。
 友近賞に選んでいただけたことは率直にうれしかったです。「月と林檎」は少し癖のある内容だと思うので、どうして友近さんはこれを選んでくださったのだろうと気になりました。その後「小説新潮」で選評を拝読し、自分がこの小説の主眼として考えていた「見る/見られる」という関係性に着目して読んでくださったことを知って、本当にうれしかったです。贈呈式では友近さんをはじめ、先生方や関係者の皆様から直接コメントをいただき、喜びと感謝がさらに深まりました。

――ご改稿された受賞作が「小説新潮」に掲載されて、今はどう思われますか。

 多くの方の目にふれる場所へ自作を送り出せて、満足感と緊張感が混在しています。「小説新潮」ではイラストレーターの合田里美さんに印象的な扉絵を描いていただき、「月と林檎」がすごく素敵な小説に進化したように錯覚しました。といっても、本文は結局自分の文章ですから、時間が経って読み返すとやはりまだ書き直す余地があるなと感じます。今後、もう少し枚数をふやして改稿する機会があればと思っています。本当は直す余地のないものを一発で書けたら、それに越したことはないのですが……。

――どうしてR-18文学賞に応募されたのでしょうか。

 私事で恐縮ですが、昨年、別の筆名で応募した「楽園」という小説が太宰治賞をいただきました。「楽園」は、急逝した知人の未完の遺作からタイトルのみを継承し、彼を偲ぶ仲間の支援を受けて書き上げた物語です。身勝手な話ですが、私は自分がデビューすることを目的にしていたわけではなく、「楽園」を世の中に送り出したいという一心でした。このプロジェクトは運よく実を結び、私は以前から決めていたとおり、個人として公募に挑戦する日々に戻ることにしました。R-18文学賞に応募したのは、以前からこの賞に関心があったことに加え、「楽園」の制作を応援してくださった官能小説家の小鳥遊葵先生の影響もあります。R-18文学賞から書き手として再スタートできたことを本当に幸せに思っています。

――小説を書き始めたきっかけは何でしょうか。

 きっかけは、本当にしょうもないことです。私は昔から少年漫画が好きだったのですが、当時連載していた好きな作品のストーリーがなかなか進まなくてじれったくなり、自分で勝手に結末までの展開を捏造してみようと思いついたんです。だけど漫画の絵はとても描けないから、ノートに文章で書きました。それが小学校高学年くらいのときです。オリジナルのものを書き始めたのは中学校に上がってからで、父が譲ってくれた古いワープロを使って、小説とも呼べない短い文章を書くようになりました。それからもう十五年くらい、断続的に書いてきました。限りある時間をフィクションに費やしている場合じゃないだろうとか、世の中には才能ある書き手が溢れているのに自分の文章なんか誰が読むんだと悩んで、何度か書くのをやめようとしました。でも、結局は小説のアイデアがどこからともなくわいてきて、今日に至ります。

――受賞作では美術講師の歪んだ造形やエロティックさについての評価が高かったですが、それについてどう思われますでしょうか。

 大変光栄なことだと思います。それと同時に、この程度ではまだまだ平凡というか、歪み方が足りない気もしています。今までは、これ以上やったらまずいんじゃないかという羞恥心や恐れがあって、自分の中でリミッターをかけていたのですが、そんなものはもう静かに壊してしまいたいです。
 変な話ですが、今回賞をいただいてから初めて、自分が女性の書き手だということを意識するようになりました。私は周囲からよく文体や行動が男性的だと言われ、自分自身、身近な女性の心の機微がよくわからないと感じる場面が多いのですが、それでも一応女性として社会生活を送っています。そのことを自覚的に見つめて書く時期がきたのかなと思うようになりました。

――今後、どのようなものを書いていきたいですか。

 ファンタジーや犯罪小説など書きたいものは色々ありますが、まずは「月と林檎」の続編を書けたらと思っています。作中に出てきた美術講師や主人公の友人などの視点で、物語の全体像を多角的に描いてみたいです。それ以外に一つ具体的に挙げるとすれば、数年前から温めている「竹夫人ちくふじん」に関する話でしょうか。竹夫人というのは、竹で編まれた細長い籠状の抱き枕なのですが、その中に女の人を閉じ込める話とか……需要がない気もしますけれど、もし書く機会があれば書きたいです。今後どんなタイプの小説を書かせていただくにしても、自分が熱意を持って取り組めるテーマ・題材を、読み手に楽しんでいただける形で提供したいという意識は、常に持っていたいと思います。