女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第11回受賞作品
受賞の言葉

王冠ロゴ 読者賞受賞

こざわたまこ

「ハロー、厄災」

こざわたまこ

1986年福島県生まれ、25歳。会社員。神奈川在住。趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。

受賞の言葉

 東北の田舎で育った私の子供の頃の夢は、小説家でした。恥ずかしげもなく、文集にもそう書いています。本を読んでいると大人が褒めてくれましたし、小学校の頃、これ見よがしに図書館から何冊も本を借りていた私は、先生から「お前は月島雫(ジブリ映画「耳をすませば」の主人公。読書好きで小説家を目指している)みたいだなあ」なんて言われて、完全にその気になってしまったのです。けれど成長するにつれ、小説家になるにはどうやら莫大な量の本を読み、膨大な量の原稿を書かなければいけないらしいと気づきました。それなのに私は、小説用のノートを買ってはすぐに挫折し、小説を書き上げられたためしがないのです。最初の二、三枚だけ文字で埋まったキャンパスノートが押し入れに溜まっていくのを横目に、太宰とかランボーとか無理、漫画の方が面白いしと思った私は、月島雫をさっさとあきらめ、東京のOLになりました。それから数年、私に残っていたものは、給料の何割かをつぎ込み部屋に山積みにされた漫画と、会社で覚えたエクセルの操作方法(初歩)のみ。
 子供の頃夢見てた未来と全然違う、これはまずい、とあせった私は、再び小説を書き始めました。そこで頭に浮かんだのは、自分の故郷のことでした。田舎と若者の話を書こう、と思いました。小さな村で、大して不幸でもないくせに不自由しか感じていないような男の子と女の子の話を書こう。そうして出来上がったのが今回応募した作品です。こんな、青春をこじらせてしまったような拙い小説を最後まで読んでくだった(さらにはコメントまで!)皆様、選考委員の先生方、関係者の皆々様、そしてこの物語を書かせてくれた私の故郷に対し、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。月島雫になれなかった田舎者のOLは、エクセル中級者を目指しつつ、今日も小説を書いて行きたいと思います。