女による女のためのR-18文学賞

新潮社

対談

第7回R-18文学賞 
受賞者対談

蛭田亜紗子×山内マリコ

蛭田亜紗子 山内マリコ

――このたびは受賞おめでとうございます。受賞の報せを受けたとき、どのようなお気持ちでしたか?

蛭田 今回の目標は最終選考に残って、選考委員の方々の講評をいただくことだったんです。最終選考に残ったところでその目標が達成できてすごく満足していて。まさか受賞はないだろうと思っていたので、メールで受賞を知ったときにはすごく驚きました。

山内 玄関先に置いた鞄の中の携帯がブルルッと振動して。電話に出たら受賞の連絡でした。かなりドギマギしてしまいました。電話を切ってからは飼っている猫に向かって「バンザーイ!」と喜んだあとに、家族と友達に電話しました。みんなが喜んでくれるのを耳にしてやっと受賞の実感が湧きましたね。

――これまでもずっと小説を書いていらしたんですか?

蛭田 いちばん最初に書いたのは中学生の時でした。三十枚くらいのファンタジーっぽいもの。雑誌に応募したのですが結果は出ず、それからは小説を書くことをやめていました。書きたいという気持ちはずっとあったのですが、仕事をしながらだとなかなか書くことができなくて。会社を辞めて暇になったときにせっかくの機会だから、と思ってまた書き始めたんです。最初に書いたときからは10年以上ブランクがありましたね。

山内 私も仕事をしながらだと書けないと思って、それまでは京都でライターをやっていたんですけど、仕事を辞めて一年半前に東京に引っ越してきました。いろいろと書いては締め切りが間に合う賞に応募していましたが、結果はさっぱりでしたね。友達が、私のカラーがすんなりわかってもらえるのはR-18かなとアドバイスをくれて、去年もR-18文学賞には応募したのですが一次で落ちてしまいました。今回は2作送って、そのうちの1作で受賞することができました。

蛭田 私も今回は2作応募しました。半年間で短い小説を3作書いて、そのうちの2作です。もう1作は文學界新人賞に応募しました。

山内 実は、今回受賞した作品は、2作のうちの本命ではなくて滑り止めだと思って出していたものだったんです。最終選考に残るとは期待していなかったのですごく意外でびっくりしました。

――なるほど。今回は偶然、お二人とも2作応募していたんですね。受賞作の構想はどのように出来たのですか?

蛭田 タイトルから出来ました。なんとなく浮かんだ言葉を書き留めているメモの中に「自縄自縛の二乗」というフレーズがあって、ダジャレみたいなんですけど、そこから広げて物語ができないかな、と思って。自縛の話を書いてみたいと以前から思っていたので、そこに繋げていきました。

山内 私はまず、「夢に入り込んでそこで過ごす」というイメージが出てきたんです。あと、若くて調子に乗ってる女の子ふたりを描きたかった。女の子って二人でツルむとすごく傍若無人になるんですけど、外部には弱いですよね。小さな世界の中だけでいい気になってる。大人になってからそういう子を見かけるとウザいなんて思いがちですけど、自分だってそうだったんだし、できればもっと優しい目で見たいな、と思いながら書きました。

――作中の性的な要素に関してはどのように捉えていたんでしょうか?

蛭田 性的な行為は基本的には男女など、「二人」で作り上げるもの。だけど「一人」で、閉鎖されたなかでどんどん奥に進んでいく様子を書いてみたいと思って、そのひとつの形として自縛というモチーフを使いました。自縛を通して、誰もが心の中に持っているものを書きたかったんです。例えば今回の小説の場合、それは生活の中から逸脱したいという「逸脱願望」と自分自身とのあいだの揺らぎでした。

山内 若い人が向き合うセックスってどこか間抜けだと思うんです。下手だし間抜け、そういう馬鹿なところを面白く書けたらいいかな、と。セックスって10代の子や経験のない子にとってすごく不安要素が多いジャンルじゃないですか。セックスのわけわからなさってひとりで抱えていると結構辛い。その気持ちを活字で読めたら、ちょっと安心してもらえるかな、そうなるといいなって思います。

――では作品の読者として想定しているのは10代の女の子ですか?

山内 この小説に関してはそうですね。自分がいちばん本を読んでいたのは10代の時でしたし、小説を偏見なく摂取できる年代ではないでしょうか。そういう時期に読んだ作品ってすごく大切なものになるので、私の小説もそう在れたら、すごく嬉しいですね。

――蛭田さんはどうでしょうか。

蛭田 私の場合、今回の小説は働いている女性に向けてという気持ちがありました。その人の中で抑え切れないものが、小説を読んでもらって少しでも救われればと思います。

――作品を書くうえで気をつけていたことは何ですか?

蛭田 人間をしっかり書こうというのは常に意識していました。私は全体的に鈍いので、あまり人をちゃんと見てないところがあって。結構ちゃんと書けたつもりでも後で読んでみるとスカスカで、人物が書けてないなと思うことが多かったので、そこは気をつけていました。

山内 できるだけ客観的に読み返して、しつこく推敲すること。文章ってすごくデリケートなので、ちょっとした言い回しでも読む方に誤解や反感を抱かせてしまうこともあると思います。その点は自分で注意深く見ているつもりです。

――影響を受けた作家、作品は?

蛭田 トルーマン・カポーティの短編がとても好きです。特に「無頭の鷹」という作品。こういう作品が書きたい、というわけではないのですが、何度も読み返している大切な作品です。日本の作家だと、安部公房や谷崎潤一郎も好きですね。

山内 トム・ロビンズの『カウガール・ブルース』ですね。映画の原作にもなったんですが、こんなに面白い小説があるんだ! と衝撃を受けました。それと、ポール・オースターの『リヴァイアサン』も別格に好きな作品です。

――これからどんな作品を書いていきたいですか?

蛭田 受賞作は、クリック投票では思うように票が入らなかったんです。人の心に届く作品を書くのは難しいんだなと痛感しました。今回で言えば自縛を愛好する人のような、「マイノリティー」を描いても、普遍性をもって人の心に届くものを書ければと思います。万人に届くのはすごく難しい、というかありえないことだとは思うのですが、できるだけ多くの人の心を捉えるものを書きたいと思います。

山内 人間のちょっと変なところとか、他人からは引かれちゃうところを書きたいですね。よく知ると面白いんだけど、なかなか伝わりづらいメンタリティーのような。あとは「思い出」でしょうか。小さなころに遭遇した出来事、眺めていたもの、出会った人たち、それらは記憶や思い出としてしか残らなくて、どんどん自分の中に蓄積されながら進んでいく。で、あるときふと引き戻される。そういう感覚を描いていきたいです。

――ありがとうございました。これからもがんばって下さい。