新潮選書 |
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自然はそんなにヤワじゃない―誤解だらけの生態系―
自分の「生態系観」を疑ってみよう
朝食を食べながらワイドショーを見ていたら、画面の向こうで神妙な顔をしたコメンテーターたちが、VTRを食い入るように見ていた。
「早く、湾の外に逃げていくといいんですがね」
「背びれから血が出ていて、痛々しいですね」
5月初旬、和歌山県田辺市の内ノ浦湾に1頭のマッコウクジラが迷い込んだ。彼らコメンテーターは、この出来事に対して、そのような当たり障りのないコメントを吐いていた。「当たり障りのない」としたのは、普通、見ている方もそんな感想をきっと持つだろうという意味である。
でも、この本を編集したばかりの私はそうは思わなかった。痛々しいからといって、助ける行為は正しいのだろうか? このクジラは、どこか適応力が欠けていたのではないか……?
こんな風にも考えてみた。もし、アフリカのどこかの草原に、私たちがいたとしよう。10メートル先で、インパラが沼で溺れていた。そのインパラのことを私たちは助けるだろうか。仮に助けたとしてもその行為は、はたして正しいことなんだろうか。もし、誰も見ていなければそのインパラは数分後、確実に溺れ死ぬ。そのインパラは、不運で、適応力不足のため、自然の中では生きられない個体だったのだ。自然界で起きることに、深く考えることなしに手を差しのべる権利が私たちにはあるのだろうか。
「自然を守ろう」と私たちが言う時、その「自然」には「偏り」があることを、私たちは得てして気づかない。愛らしい動物、目に見える大きな生き物、人間にとって有益な植物などを、好んで保護したがる。本書は、そうしたご都合主義に陥っている私たちの生態系観に異議をとなえる1冊である。
2009/05



