2007年08月10日 |
畠中さん、根付師さんのお仕事場を訪問するの巻(4)
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[前回までのあらすじ]
「しゃばけ」シリーズのファンだと言ってくださった根付師・向田陽佳さんのお仕事場を訪問させていただくことになった畠中さんとバーチャル長崎屋奉公人チームおこぐ&博吉。紆余曲折の末、ようやくお仕事場に辿り着き、作業工程についていろいろお話を伺うことに。ここまでの珍道中は「畠中さん、根付師さんのお仕事場を訪問するの巻(1)~(3)」をご覧下さい。


お仕事場に足を踏み入れて一番はじめに目を引いたのは、絡まり合う「ナニカの角」。
コレラはいったい何なんでしょう?

向田さん「これはエゾ鹿の角です。置き場がなくてこんなところで絡まってます(笑)」


●絡まり合う鹿の角

畠中さんは興味津々。
目は皿のように、耳はいつもの1.5倍くらいの大きさになっておいでのご様子です。
触ってみると角はひんやり冷たくて、もちろんのこととても堅い。
これらを削って根付にするわけですが、根付の材料としては、鹿の角の他に象牙、木片なども使われるそうです。

根付といえば、象牙。現在では非常に貴重で高価になってしまった象牙を見せていただくと、なぜだか真ん中にぽっかり穴が空いています。

れれれ、これって象牙の不良品?

向田さん「いえいえ、これこそホンモノの象牙の証拠なんですよ(笑)。角っていうのは、象であれ、鹿であれ、真ん中に穴や鬆(す)が空いているものなんです。この穴の中に神経なんかが通っているのでしょう」


●鹿の角にあいた神経が通っていた「鬆(す)穴」

畠中さん「ほぇ~。言われてみれば当たり前ですけれど、見てみないとちょっと想像つきませんでした。こんな風に穴が空いてるものなんですねぇ」

おこぐ「やや、本当。これは面白い! 大きく見える象牙でも、こんな穴が空いていたら、そんなに大きな根付は作れませんね」

向田さん「そうなんです。ですから、この穴を利用して指輪を作ったり、角の元の方はバングルにしたりします」


●象牙の真ん中にこんなに大きな穴が空いていることを初めて知りました


●こちらも象牙


●穴の大きさを生かして指輪を制作

畠中さん「なるほど~、貴重な材料ですからとことん無駄にしないように工夫なさるわけですか」

向田さん「そうです。大きいものや小さな破片まで、作るものの形状によって、持っている材料のどの部分を使うか決めるんですよ」


●ストックしてある象牙

 

●こういう小さな欠片も大事に取っておく

博吉「で、こっちのお机で細工をなさるんですね。彫刻刀がいっぱいありますが、これはもしかして手作りでしょうか」

向田さん「はい。自分で作れる道具は手作りしています。こんな感じで普段作業するんですよ」
 

●実際の作業風景を再現していただきました


●不器用なおこぐには絶対出来ない仕事です

博吉「彫刻刀の他に手作りしてらっしゃる道具って、どんなのがあるんですか」

向田さん「今は紙やすりひとつにしてもたくさんの種類が出ていますから、ホームセンターなんかに行けばいろいろ選べますが、やっぱり根付作りには昔ながらの道具のほうが使い勝手がいいことが多いんです。たとえば、これ、なんだかお分かりになりますか?」
 

●昔からヤスリの代わりに使われた砥草。これは塩茹でした後、乾燥させて使われる

畠中さん「えっと、どこかでみたことあるような……」

おこぐ「これは乾燥した草の茎です!」

博吉「ばかっ。そんなこと誰だって分かるだろっ。何の草の茎か聞かれてるんだよっ」

向田さん「これは砥草の茎を塩茹でしてから乾燥させたもので、ヤスリとして使います。ちょっと触ってみてください」

畠中さん「なんかざらざらしてます!」

向田さん「そうなんです、天然のヤスリなんですよ。今で言う紙ヤスリみたいなものです。大きな形を取るのは金属のヤスリや彫刻刀を使いますが、細かい傷は彫刻刀ではとれませんから、砥草も中が空洞なので、そこに棒を差し込んで磨きながら傷を取っていくんです」

おこぐ「なるほど~。草ならタダですしね!」

向田さん「そうなんです(笑)。玄関前で栽培してます」
 
おこぐ「やっぱり!」

畠中さん「江戸時代もそうやっていたんでしょうねぇ。なんかものすごくイメージがふくらんできました!」

向田さん「他にも象牙に色を付けるのには、江戸時代にはお歯黒をするためにもつかっていたヤシャの実を煮出した液を使います」

畠中さん「え? どれですか? 見せていただけます?」

向田さん「こうやって自分で煮出して、根付を染める染料としてつかうんですよ」


●土鍋の中には真っ黒な液。中にはヤシャの実が

畠中さん「すごい!」

向田さん「これが煮出す前のヤシャの実です」


●ちょっとピンボケですが、小さい松ぼっくりみたいなヤシャの実

畠中さん「かわいらしい!」

向田さん「これも自分で山に入って拾ってくるんです」

畠中さん「……ひとつほしい……かも……」

向田さん「どうぞどうぞ、砥草もお持ちになって下さい」

畠中さん「うれしい! ありがとうございます!」

おこぐ「よかったですね、畠中さん。せっかくですから、ここは後学のためにちょっとお歯黒も塗ってもらったら如何ですか。江戸時代の女性の気持ちが分かるかもしれません」

畠中さん「うっ。……おこぐさんの提案はありがたいですが、遠慮しておきます」

おこぐ「そうですかー、じゃ、おこぐがやってみようかなー」(と、早速手を伸ばす)

向田さん「え? 塗ったら本当に黒くなって、ちょっとやそっとではとれませんから、やめた方がいいですよっ!」

博吉(はっしとおこぐの手を掴み)「おこぐ、やめておけっ。なんかおこぐというのは、それが後々どういう事を引き起こすか考えずに、ボタンがあった押したい、お歯黒液があったら塗りたいって思って、実際やっちゃう性格なんですよ。本当に困りもので……」

おこぐ「だめかー。残念ですが、笑ったらいきなり歯が黒いって、ちょっとホラーじみてて面白いですけどね。やめておきましょう。編集部では受けたかもしれませんが」
 
向田さん「……やめておいたほうがいいですよ」
 
畠中さん「ええ、やめておいて正解です……。しかし本当に芸術的センスがないと出来ないお仕事ですね~」

おこぐ「本当に。ここに貼ってある可愛い鳥の絵は向田さんが描かれたんですよね?」

向田さん「そうです。すずめのチュン太」(ちょっぴり恥ずかしそう)


●根付師は絵もうまくないとなれません

畠中さん「お上手ですねぇ~」

向田さん「日々精進です!」

おこぐ「さすが!」

博吉「おこぐもちょっとは見習ったらどうだ?」

おこぐ「もちろん、おこぐも日々精進してるもん! ね、畠中さんっ!」

畠中さん「……ええ、そうですねぇ~。私も精進しなくちゃ~」
 
一通り、お仕事場の説明をお聞きした後、向田さんが展示会のギャラリートークをされたときに使われた資料を見せていただきました。

鮑の殻や、家具で有名なマホガニーなど、いろんな材料(写真A)や、ただの木片がウサギに変身するまで(写真B)や、これまでに向田さんがお作りになった作品等々(写真C)。

お母様との合作の名刺入れ(写真D)なども見せていただき、一同、その美しさにため息が出るばかりでございました。


●(写真A)いろんなものから根付が作り出されます


●(写真B)ただの木片がウサギに変身するまで。お見事!


●(写真C)おこぐのダメダメ写真でしかお見せできないのが残念です


●(写真D)これぞ日本の芸術品!

向田さん「少しは参考にしていただけそうでしょうか」

畠中さん「本当にタメになりました。ありがとうございます~。お話を伺っていると、イメージが次々に湧いてきて、プロットが一本出来たような気がします」

おこぐ「それはよかったです。ちゃんと『しゃばけ』シリーズにだしてくださいね。『まんまこと』に出てきたりしたら、おこぐショックで寝込んじゃいますから~。で、どんなお話ですか」

畠中さん「そ、それは……秘密です。でもそのうち根付師さんの出てくるお話を書くと思います~」

向田さん「楽しみにしています」

向田さん、本当にありがとうございました!
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