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忍びの国
和田竜
人間離れした技ばかりが、忍びの術ではない。親兄弟すら欺き、ひたすら出し抜くこと。でなければ、生き残れぬ。戦国大名不在の国、伊賀国に織田軍一万余が攻め込んだ。「その腕、絶人の域」と言われる忍びの無門は想い女のお国を連れて敵前逃亡をはかるが……。歴史時代小説の枠を超えた面白さと圧倒的な感動に包まれる傑作長篇。
ISBN:
978-4-10-306881-5
発売日:
2008/05/30
1,575
円(定価)
四月十九日、吉本興業東京本社社屋にて収録
和田竜&品川ヒロシ対談
人気のお笑いコンビ「品川庄司」の品川ヒロシさんは、和田竜さんの大ファン。ご本人のブログで、新潮社から出た『忍びの国』を大絶賛したことが縁で、お二人の夢の対談が実現することになりました。
脚本、監督を手がけた映画『ドロップ』が大ヒットした品川さん、『のぼうの城』が2009年の本屋大賞第2位となりますます注目を集める和田さん、二人のトークを掲載いたします。
(この対談は2009年4月19日に、インターネットによるライブ番組「よしもとオンライン」で配信された内容を基にしています)
ダーティに惹かれる。
品川
「品川庄司」の品川ヒロシです。いまYahoo! のよしもとオンラインよりお送りしています。僕はこのオンラインに初登場で、品川ヒロシ第一回対談となりますが、第二回目があるかどうかは定かではございません。
それはともかく、僕はある小説を読み、この小説について自分のブログに書いたところ、出版社さんから本の帯に引用させていただけませんか、というお話をいただいた。僕はその作者の方と対談したくて、だったらよしもとオンラインでやってしまおうじゃないかということで、今回の対談が実現しました。
僕がだらだらとしゃべっても何なので、それでは早速いきたいと思います。ゲストの和田竜さんです。どうぞ(拍手)。
和田
こんばんは。
品川
本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます。
和田
こちらこそ、ありがとうございます。
品川
僕は和田先生のデビュー作『のぼうの城』を読んで、これがすごく面白かった。そうこうしている間に『忍びの国』が出て、またこれもすぐ買い、読ませていただいたら、これもまためちゃくちゃ面白かった。
和田
ありがとうございます。僕も、品川さんがブログで『のぼうの城』についてコメントされているときから読んでました。
品川
えっ、本当ですか。
和田
そうなんですよ。それで、『忍びの国』が『のぼうの城』に比べて売れていないので、『忍びの国』についてもコメントしてくれないかなと思って、待ち構えていました(笑)。コメントが出て、今がチャンスだと、新潮社の方にお願いして、品川さんに声をかけてもらったんです。
品川
僕は和田先生が読んでくれたらいいなというつもりで書いていたんですよ。ブログを見ているみんなというより、もう和田先生向けでした。
和田
『忍びの国』については二回コメントをしてくださっていましたよね。
品川
一回目に、これでは足りないだろ、目にとまらないかもしれないなと思い、もう一回、書きました。というのも、『のぼうの城』は万人受けしそうですが、『忍びの国』はそうでないかもしれないと思って。『のぼうの城』のストーリーはわかりやすく、クライマックスがドーンとあって、そしてドーンと終わりますよね。だけど、『忍びの国』は二転三転し、クライマックスが何度もある。ストーリーも人物も入り組んでいて、もちろん『のぼうの城』も好きなんですけれども、僕は子どもの頃から忍者モノが好きで、だから好みで言うと、『のぼうの城』より『忍びの国』でした。
和田
『忍びの国』は悪い奴らの物語なんで、好き嫌いは分かれるかもしれませんね。
品川
でも、そこがいいじゃないですか。僕は歴史上の人物の生誕地を訪れたり、歴史の真相はこうだったという本を読んだりするのが好きで、織田信長の伊賀攻めは知ってました。でも、それは信長が伊賀を滅ぼしたときで、その前に『忍びの国』で描かれる、信長の次男、織田信雄も伊賀を攻めていたことは知らなかった。『忍びの国』は言ってみれば、伊賀攻めのサイドストーリーですよね。こういう題材をよく見つけてきて、しかも、めちゃくちゃ面白い話になるんだと思っていたんです。
で、このオンラインを見ている方に言っておきたいのですが、このあと、けっこう踏み込んだ話をしたいので、これから『忍びの国』を読もうという人はもう消してください(笑)。僕としては内容について話したいんです。もう面白いですから、是非、買ってください、読んでくださいということで、ネタばれ的なことを話していきます。
ラスト近くで伊賀の忍び、無門と伊賀を裏切った平兵衛の二人が二刀流で殺り合いますよね。伊賀に伝わる「川」という決闘手段で。お互いが四尺はなれたところに線を引き、どちらか一人が必ず死ぬから、二本の線と一体の死骸で「川」の字ができあがる。ここがカッコいい。致命傷にならない攻撃はふたりとも避けないから、ふたりは血みどろになり、どっちも、カーンと急所を狙いあって、ふたりの刃が当たるというところで、読者はやられます。
それから、門などないに等しいという「無門」という呼び名がいい。「本当の名を言わないのは、どういうことですか」とお国という女性に問い詰められるという前ふりがあって、ラスト近くでお国が死にそうなとき、また「本当の名を教えて」と訊かれる。こういうところが僕は好きなんです。無門は自分の名前は知らん、名前なんかあったら、忍びなどやってられないと泣くところで、もう僕は持っていかれました。
和田
こちらもネタ話をしましょうか。
品川
どうぞしてください。これから読む人は、もうシャットダウンしていますから。
和田
最初は、冗談みたいに「本当の名前なんて使うことがない」と振っておいて、最後で落とす、といったことは狙っていました。
品川
そうなんですよ。『のぼうの城』もそうですけれど、『忍びの国』もタメが異常に長いんですよね。もう引っ張る、引っ張る。
和田
そんなに引っ張ったつもりはないし、あまり引っ張ると、ついてきてくれないでしょう。
品川
いや、全然そんなことないですよ。読者は引き込まれます。無門は何かに目覚めるんだろうなと予想しているのに、ずっといい加減で、冷血で、本当の最後じゃないですか、目覚めるのは。
和田
『忍びの国』は、ダーティ・ヒーローを書きたいというのが、まずあったんですよ。それは僕個人の好みであって、主人公には、悪の要素が入っていて欲しい。例えば、『人造人間キカイダー』で言えば、キカイダーより敵役のハカイダーの方がいいとか、『ガンダム』で言えば、アムロよりシャアの方がカッコいいとか、そういったところです。品川さんのお書きになった小説『ドロップ』を読み、監督された映画も観させていただいたんですが、主人公のヒロシも不良に憧れますよね。そして、ヒロシが仲間入りする不良グループの井口達也となると、顔はアイドル顔で、ある種、超然としていて、なに考えているのかわからず、ワルなのにワルらしくないところがある。悪の要素が入っているという意味では、達也も典型的なタイプですね。『ドロップ』は品川さんの自伝的作品だそうですが、実在の達也も、ああいう感じなんですか。
品川
ああいう感じですね。さみしがり屋という要素はいまも残っているし、不良の連帯感みたいなものはいまだに持ってます。誰かのおふくろが亡くなったから、みんなでお悔やみに行こうぜとか、品川が来てくれたら喜ぶから葬式に出てくれよと誘われています。中学生当時は、かなりワルでしたが、どこか憎めないところがありましたね。
一生に一度でいいから、演ってみたい。
品川
和田さんは映画の脚本家になろうとしていたそうですね。
和田
ええ。『のぼうの城』も『忍びの国』ももともと脚本だったんですよ。小説家を目指したことはなく、小説を書くことになったのは、たまたまです。『のぼうの城』は脚本コンクールの城戸賞を受賞した作品がもとになっていて、『忍びの国』は映画の企画が始まりでした。
品川
脚本を書きたいがために、そして映画にしたいがために脚本を小説にしたということですか。
和田
まったく、そのとおりです。
品川
僕もそうなんですよね。映画を撮りたいと言ったら撮れるタレントはいますが、それは自分の冠で番組を持っているような人。そこにはなかなか辿り着けそうにないから、映画を撮るためには、どうすればいいかと逆算して、いまは映画を撮るなら、原作があった方が映画の企画は通りやすく、映画にしやすい。ならば、小説をということで、『ドロップ』を書き始め、それを脚本にしたんです。
和田
すごいですね。僕と逆ルートだ。
品川
『のぼうの城』と『忍びの国』の映画化はいまどうなっているんですか。
和田
『のぼうの城』は製作が決まりましたが、『忍びの国』はいま企画進行中です。
品川
是非、両方とも映画化して欲しいですね。これまた『忍びの国』のディープな話になりますが、無門はお国の思惑を想像して、会話なしで、内面描写で動く部分があるじゃないですか。織田軍が伊賀に攻め込んできて、無門が伊賀から逃げ出そうとしたりするところとか、多くは語られない。そこがまたよくて、痛快なアクション活劇になりますよ。僕はいずれ時代劇の映画ブームが起こり、『忍びの国』は火付け役になるんじゃないかと見ています。それから、『のぼうの城』の関係者には怒られそうですが、『忍びの国』の方が映画化したら、ヒットする要素は詰まっていると僕は踏んでいます。
和田
『のぼうの城』の方が万人受けしやすいはずなのに。
品川
はい。これは一ファンの勝手な意見ですけれども、のぼう様はやはり木偶の坊がやらないとのぼう様じゃないし、まわりを固めるのも、派手でなく、地味な人でないと、やはり違うなと思うんです。『忍びの国』は、無門は若いし、石川五右衛門の若いときの文吾も主要な役として登場しますが、無門より若い年齢設定です。こうした若くて、勢いのある連中に対して、伊賀を裏切る平兵衛や織田家臣団の日置大膳とかは、クセのある役者でないと務まらない。だから、『忍びの国』の方が派手な映画になると僕は思うんです。
和田
さすが『ドロップ』の監督ですね。視点が違う(笑)。
品川
いやいや、僕自身、『ドロップ』を撮るとき、若くて、イケメンに助けられましたから。これって大切な要素だと思うんですよ。『ドロップ』のヒロシ役は成宮寛貴くんで、いくらモデルは僕でも、僕が演ったら、ダメでしょ(笑)。それから達也役の水嶋ヒロくんは、無門をやらせたら、ピッタリだと思う。
和田
水嶋さんはよかったですね。『ドロップ』での回し蹴りとか、アクションシーンは決まってました。高校時代、サッカーでインターハイに出たこともあるんですよね。
品川
そうなんです。ヒロくんは格闘技はやっていないけど、運動神経が抜群にいいから、アクションシーンは本当にサマになっていました。
和田
僕はなにしろ戦闘が好きなので、アクションシーンは気になりますね。
品川
僕も『ドロップ』を書くとき、いろんな小説の喧嘩の描写を読んでみたんですよ。でも、乗り込んで、ワッーで終わりとか、「ボコボコにされた」とか、細部があまり描かれてなくて、緊迫感もないし痛そうでもない。
和田
『ドロップ』は怖かったし、痛そうでしたね。平気で頭突きしますよね。喧嘩とは言え、禁じ手じゃないかとも思ったし、実際、やられたら、かなり痛そうだ(笑)。
品川
『忍びの国』のアクションシーンも映像が浮かんでくるんです。また、なんて言うのか、男心をくすぐるアクションなんですね。無門が敵の刀の上を飛んで、肩に乗り、敵が振り返ったときには、無門は消えていたとか、走りながら槍を壁にむかって突き刺し、その上を飛んでいくところとか。
和田
細かく、いろいろ覚えてくださっていて、うれしいですね。
品川
忍者モノって、やはり熱くなりますよね。原作者として、無門や登場人物のイメージキャストはいるんですか。
和田
訊かれて申しわけないんですけれども、それが全然ないんですよ。すべて自分が芝居しながら、イメージしているんですよね。だから、自分の顔でこのセリフを言っているという感じです。
品川
僕が出演させてもらえるなら、最初は織田軍の日置大膳がいいなと思ったんですけれども、平兵衛を演りたいですね。
和田
無門ではなくて平兵衛ですか。
品川
無門は僕には荷が重いです。それに無門を演ったら、失礼です。平兵衛も魅力あるキャラクターだし、結局、平兵衛によって無門も変わっていくというところがあり、そのきっかけになるところが好きで。
和田
そうですか。
品川
平兵衛と無門が自分の後ろに線を引いて、二人で殺し合うところ。あのシーンは一生に一度でいいから演ってみたいですね。
ここからは、よしもとオンラインでの配信当日に視聴者からよせられた質問に、お二人が答えていきます。
質問コーナー
品川
これからは、いまオンラインを見てくれている方からの質問にお答えいただきたいと思います。一応、吉本の後輩なんですけれども、『ドロップ』に出ていたということで、アシスタントがいます。
坂本
一応じゃないです。どうも、『ドロップ』でテル役をやらせていただきましたアホマイルド坂本です。よろしくお願いします(拍手)。
若月
ワン公役の若月徹です。よろしくお願いします(拍手)。
坂本
お便りやコメントがたくさん届いていますので読みあげていきましょう。ハンドルネーム、コロリさんからです。「こんにちは、才能ある人と変人は紙一重と言いますが、自分って変人だと思うことはありますか」。
和田
僕は至って普通だと思います。
品川
僕も至って普通ですね。まわりから変人と見られていても、自分は変人だと思っている人は少ないんじゃないかな。奇行やおかしな言動を、自分はまともだと思ってやってますよ。もっとも、和田先生はサラリーマンをしながら、小説をお書きになるという、普通でない生活だったんですよね。
和田
ええ。でも、いまは会社をやめて、専業作家になりました。
品川
で、今は楽になりましたか。
和田
そうですね、楽になり過ぎて、寝過ぎてます(笑)。
品川
追い詰められ、時間のない生活の中で書いていた方がよかったということでしょうか。
和田
もしかしたら、そっちの方がよかったのではないかという気もしています。
品川
僕も小説をまた書いているのですが、制約や〆切りがないとダメですね。『ドロップ』は、いついつまでにあげる、というのがあり、三カ月で書いたんですけれども、仕事の合間に根詰めて書いたときの方が、粗いけどワーッといけていたような気がします。さあ、次に行きましょうか。
坂本
和田さんにです。「『忍びの国』を先に読んだ方がいいですか」。二作ありますけれども、どちらから読んだ方がいいかというご質問です。
和田
どうだろう。いま、横に新潮社の人がいるので、新潮社から出ている『忍びの国』と言いたいところですが、『のぼうの城』から先に読んでください(笑)。
品川
どっちも読んで欲しいです。
坂本
『のぼうの城』から読んで、両方読んでいただくということで。続いていきましょう。「作品を読んだ人に言われてうれしい言葉はなんですか。実際に言われた言葉や、いつか言われてみたい言葉はありますか」ということですが、いかがでしょうか。
和田
単純に、面白いと言われるのが一番うれしいですね。僕自身、つまらないものだと、いろいろ文句をつけたくなりますが、面白いものって、「面白かった」だけで、あとは説明不要みたいなところがありますよね。『ドロップ』も同じで、ひたすら喧嘩しているけれど、ひたすら面白い。だから、「面白い」と言ってもらうのが一番うれしいですね。
品川
俺はさんざん内容について語ってしまいました(笑)。でも「面白かった」と言っただけでは、対談になりません。では、次。
坂本
タイガーさんからです。「私は歴史が苦手なんですが、それでも和田さんの小説は読めますでしょうか」という質問が来ています。
品川
絶対に読めます。これは自信をもって言えますね。歴史が苦手な人でも大丈夫です。ただ、コツとしては、小説を読み慣れていない人は人物名を書き出しておくといいですよ。僕は海外の小説を読むときは、カタカナの名前と簡単な出来事を書いておく。あとで、ああこいつか、とわかるから。歴史小説は読んだことがないよという人は、そうすればいいです。それに、和田先生の小説は現代風で、読みやすいはずです。
若月
僕でも面白く読めましたから。
坂本
徹でも読めたから大丈夫。
若月
勉強は全くしていないんですよ。でも楽しく読めました。すごく面白かったです、本当に。
坂本
徹が言うと、安っぽくなるな。
品川
でも、和田先生は、おまえみたいな、内容のない褒め方の方が好きらしい(笑)。俺みたいに、だらだらと薀蓄を語るのではなく。ただ、おまえより、出版社さんは俺の言うことの方を喜んでくれる(笑)。
若月
いいですよ。気持ちが伝わればいいですから。
坂本
残り少なくなりましたが、品川さん、もうすぐお時間です。
品川
ええ、もうそんなに。早いですね。今日はいかがでしたか。
和田
あっという間でした。最初はちょっと緊張したんですけれども、こういう機会はないので、すごく楽しかったです。
品川
そうですか。そんなに緊張しているようには見えませんでしたよ。リリー・フランキーさんのような空気をお持ちの方で(笑)、とぼけたというか、関西のご出身なんですよね。
和田
生まれは大阪で、広島育ちです。十五歳まで広島にいました。
品川
広島はロケーションがいいですよね。広島で育つと、歴史とかに興味を持つんですかね。
和田
全然。
品川
関係ないですか。そうですか。そうですよね。歴史上の人物で、広島出身とか、のちに広島に行ったという人はいるけど……芸州藩ですよね。
和田
そうですね。 頼山陽とか、そんなんですね。『日本外史』を書いた。
品川
さすがですね。俺は竜雷太しか出てこない(笑)。最後になりましたが、僕は本の帯に出させていただいてますが、どうしてこの宣材写真なんだろう(笑)。いつもこれなんですよ。もう五、六年前のもので、早く変えて欲しい。帯に使ってもらえて、うれしかったのに。帯に出ることはなかったんですよ。
和田
そうですか。本当にどうもありがとうございます。
品川
そうなんですよ。お会いできて、本当によかったです。次回作も期待していますので、次回作ができたら、是非またこういう機会をつくりたいです。今日はありがとうございました(拍手)。
(四月十九日、吉本興業東京本社社屋にて収録)
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