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悶々ホルモン
佐藤和歌子

「煮込みにレバ刺し、ガツたれ焼き、それから熱燗一本、お願いしまーす」20代にして一人焼き肉常連の女子が、ホッピー片手に究極のモツ焼き屋を探して、昨日は立ち飲み、明日は老舗、そして今夜はどの店へ!? おいしくてヘルシー、オヤジにも女子にも人気の禁断の味。この本を道連れに、今日からあなたもホルモニアン!

ISBN:978-4-10-313231-8 発売日:2008/12/19

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1,365円(定価) 購入

波 2009年1月号より

独身女性の日常に、レバやハラミやセンマイが
石丸元章


 冒頭の長詩、『ほるもんのうた』に吹き出してしまった、失礼ながら。(以下引用)〈手ぶらで生きる動物の/はらわた旨し秋の空/レバ刺し一皿七十円/家賃は七万八千円/原稿一枚四千円〉から始まるこの長詩は、〈あの日別れたあの男/肉を焼くのが上手かった〉と締められている。うむ。「秋の空」か。俳句の季語だ。秋空の下、一人焼肉屋で網をつつく27歳独身女性の、男が決して覗き見てはならない心情が、季語に集約されている。
 本書は、焼肉とホルモン焼きの店を紹介するガイドブックの体裁をとった……これはエッセイ集でもあるね。ある夜は一人で、ある夕刻は女だらけの友人たちと、あるいは「仲間」という関係の無職の男性と、彼女はホルモン料理を食い続ける。独身女性の日常生活の中に、レバ刺しやセンマイやハラミが、どのように忍び込み共生しているのか? 著者は、色気ではなく腹が膨れて夜更けのドライブの最中にホックを外したりする。うぬ。ガード下のホルモンやミノが、美しく輝いて宝石のように見えてしまったりする。
 名言数限りなし。
〈女が一人で焼き肉屋に行く時、それは、男に失望した時。同時に、女としての自分に失望した時なのです。〉〈男ではない、もっと確実な癒しの装置を自分の外部に求めた時、女は一人焼き肉に走るのです〉〈実は私、ホルモンを食べるなら平日、と心に決めています。理由は簡単、日祝日は食肉市場がお休みだから。〉〈ジュエルとは即ち、輝く肉だけに与えられる称号。〉〈うまい店を教えてくれる友達も有り難いけど、どんな店にも付きあってくれる友達も、同じくらい貴重なんです。〉いずれも、本当にホルモンを焼いている最中に湧き上がってきた心情なのだろう。そうとしか思えない。
 しっかし、よく食っている。当たり前のように、もつ焼きや焼肉をハシゴして、餃子まで食っている。ご本人曰く〈そこから先はまさに獣飯。〉注文するのはアブラ。ピストン。フワ。豚のキンタマ。知らないものがいっぱい出てくる。アブラは、豚の首の肉。ピストンは、豚の心臓近くの太い血管。フワは牛の肺。豚のキンタマは――レバと系統は似てるけど、脂が乗ってる分、キンタマのほうが上、だそうな。で、キンタマ、コブクロ、キンタマ、と交互に箸を伸ばすという描写に、ひっくり返ってしまった。かなわんな、この女性には。しかも、とんでもない量を食べている。比例して酒も。でも、だから面白い!
 ホルモン焼き屋のおやじ・女将の名言も見逃せない――というか、著者の佐藤和歌子さんは、常にそこを見逃さない。「もうすぐだから。知らない世界に連れてってやるから」東十条の焼きとんの名店「埼玉屋」のおやじが客に放つ、得意のフレーズだそうだ。「まずはレバ。ベリーレアで行こうか」も残響する一言だ。
 赤坂にある高級ホルモン懐石料理屋「さんだ」の女将が放つのはこれ。「国内で生まれて国内で育てられたのが和牛、外国で生まれて国内で育てられたのが国産牛。生まれと育ち、お味は随分違います」確かに一癖あるねえ。
 エッセイ集と書いたが、週刊コミック誌『モーニング』の連載コラムが初出なので、一つ一つの店が、コンパクトな文章で不足なく紹介されている。ガイドとしても秀逸だ。銀座、赤坂から立石、恵比寿まで、東京中をくまなく徘徊。さらに大阪。京都。福岡。ロマンスカーに乗っての遠征。ちなみに福岡では、馬の直腸を食べてらっしゃる。直腸と言えば、肛門の一歩手前、座薬が鎮座する部分だろう。気になるお味は、〈ふわっと鼻に抜ける、シットの香り。これは確かに、初めてだ……。(略)要するにシットの風味を楽しむ逸品なのですね。〉シットとは、この場合「馬糞」を意味する。すごい! いろんなグルメブックがあるが、馬糞の味を評できる人はなかなかいませんよ。
 中野北口の「川二郎」では、塩・蒲焼のほか、にんにく、ワサビ、生姜醤油焼きのうなぎが食べられるという。なるほど、そうですか!

(いしまる・げんしょう 作家)

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