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野人伝
岡野雅行

波乱万丈、抱腹絶倒、こんなサッカー人生、ホントにアリ!? 完全無名選手が突如プロデビュー、日本をW杯に導くゴールを決め、浦和レッズも黄金時代へ。そして37歳の今なおガイナーレ鳥取で走り続ける。サッカー留学のつもりが不良更生学校に紛れ込んでしまった衝撃の高校生活も告白。野人のすべてを今、初めて明かします!

ISBN:978-4-10-321321-5 発売日:2009/12/18

立ち読み 書評

1,365円(定価) 購入

波 2010年1月号より

岡野雅行『野人伝』刊行記念対談
爆笑、そして涙。マンガのような偉人伝

岡野雅行×平田竹男


野人はいま鳥取で走っている。Jリーグの3部にあたるJFLで、チームをJ2へと昇格させるために。そんな野人の自伝刊行を機に、対談相手を務めてくれたのは平田竹男教授。通産省でプロサッカーリーグの基礎作りに尽力し、その後日本サッカー協会へと転身、専務理事として4年間代表チームのマッチメイクを仕切ってきた。ふたりは意外なことに旧知の間柄なのだそうで……。

  カザフスタン戦秘話

平田 岡野と会ったのは、直江さんというトレーナーの方に紹介してもらったのがきっかけだったね。
岡野 はい、それで一緒にご飯を食べたりして。カザフスタンでもお会いしましたね。フランスW杯アジア最終予選の時。
平田 あれはぼくが通産省にいた頃で、カザフスタンへ初めて行った時なんですよね。石油利権の獲得のために。
岡野 あの試合で、ぼくはちょっとした事件を起こしてしまったんですよ。ベンチで見ていると、中にはどうも調子のよくない選手もいるのに、加茂監督は他の選手を代えている。それでキレちゃった。「おい、代える選手がちがうだろ! 選手はみんな日の丸を背負ってやってるんだから平等だろ!」って、加茂監督をベンチで怒鳴りつけちゃったんです。
平田 その試合の後、ぼくは岡野に何も知らずに励ましの電話を入れたんだけど、そしたら「いまから行きます!」って、一緒にご飯を食べることになった。合宿中に外出してもいいのかなと思い、やめとけと言ったけど、岡野はキレていて、「いいんです、行きます!」ってね。
岡野 それで飲んで酔っぱらってホテルに帰ってきたら、なんと加茂監督が更迭されていたんです。緊急ミーティングに参加していなかったのは、ぼくだけでした(笑)。だからぼくの中に残った監督としての加茂さんの最後の印象は、キレるぼくを唖然と見つめる姿、なんです。
平田 その翌日、ぼくは加茂さんと偶然会っているんだよ。
岡野 えっ、本当ですか?
平田 ぼくは次の日に、フランクフルト経由でアゼルバイジャンに行く予定だったんだけど、空港で加茂さんと出くわしたんだ。すると加茂さんいわく、「チームのチャーター機にはもう乗れんのや」。加茂さんもフランクフルト経由で日本に帰らなければいけないのに、フランクフルトから先のチケットが取れていないという。それで帰国のお手伝いをさせてもらった。加茂さんとは、もともと面識があったんだよね。ぼくは、ブラジル代表キャプテンで日産自動車に選手で来ていたオスカールと友達で、その関係で加茂さんと知り合いだったんだ。

  笑いながら泣けた自伝

平田 岡野の自伝『野人伝』、読ませてもらったけど、家で読んでいたら、家族に心配されちゃったよ。
岡野 えっ、なぜですか?
平田 読みながら大笑いしていたら、今度はいきなり泣き始めたりして。笑いながら泣いているから家族が驚いたみたい(笑)。読んでいて4回くらい大泣きしたよ。たとえば高校1年生の時に岡野が学校にサッカー部を作ったエピソード。不良の怖い先輩たちは誰もマジメに試合に臨んでくれずに、すぐに相手チームと乱闘になってしまう。それで岡野が泣きながら「もうやめます」と訴えると、先輩たちが「悪かった。ちゃんとやるよ」と応えてくれる。野人・岡野の人間的魅力でみんなが熱くなって、それが何かを生みだしていくんだな。
岡野 ありがとうございます。
平田 犬に追いかけられても走り勝ったとか、大学では最強の筑波大相手に酔っぱらったまま試合に出て独走シュートを決めちゃうとか、まるでマンガのような話ばかりだけど、偉人伝でもある、そんな本だね。浦和レッズがJ2からJ1へと昇格する時の話も感動したなあ。
岡野 あの試合の相手はサガン鳥栖だったんですよね。昇格を争う大分トリニータの試合が先に終わっていて、レッズは勝つしかない状態で延長戦に入ったんです。でもひとり退場者も出していて、内容的には押されまくり。スタジアムはシーンとしていた。
平田 金縛り状態だね。
岡野 で、延長戦に入る時に、ぼくに出番が来たんです。当時のフィジカルコーチはフラビオさん。ジョホールバルの時の日本代表のコーチです。するとフラビオさんが「どこかで見たようなシーンだね」と。そう、ジョホールバルの時と一緒だったんです。それでぼくはスタジアムの中を全力疾走してみた。そしたらゴール裏がちょっと盛り上がった。もう1回走ってみたら、さらに盛り上がった。そこでゴール裏に向かって「行くぞ~~~~!」と煽ったら、サポーターが一斉に立ち上がって、もうすごい盛り上がりになっちゃった。鳥栖の選手たちは驚いていたけど、見ると、ただぼくが走っているだけですからね(笑)。あの瞬間に、この試合は勝ったなと思いました。延長戦が始まると、それまで押されまくっていたのが嘘のように、攻めまくって、その勢いのまま土橋(正樹)がミドルシュートを決めたんです。いつもだったら、打たないで横にパスを回すんですけどね。
平田 ギド(・ブッフバルト浦和レッズ元監督)が「岡野がよくチームをまとめてくれている」と言っていたそうだけど、岡野には人の心を動かす力があるんだよ。ぼくのゼミ生に、いま桑田真澄がいるんだけど、彼は「内野や外野が『この投手のために捕ってやろう』と思ってくれるだけでまったく変わってくる」と言っていた。岡野には、チームをまとめて、他の選手たちの力を引き出す能力がある。それが感覚的に備わっているんだよ。やっぱりドイツW杯の時、ジーコジャパンに岡野にいてほしかったなあ。オーストラリア戦なんて、みんな固かったから。
岡野 平田さんは著書の『サッカーという名の戦争』(新潮社刊)で書かれていますが、協会専務理事の時、ジーコジャパンを支える立場にいたんですよね。そして代表のマッチメイクを大きく変えた。
平田 たとえばアウェーでどんどん代表戦を組んだりしてね。
岡野 確かにアウェーで戦うとまったく違いますよね。向こうの選手も、日本に来た時には秋葉原での買い物のほうが大事になっちゃったりするけど、こちらがアウェーに行くと意識が全然違う。コパ・アメリカ(南米選手権)に日本が招待された時なんて、ディフェンダーに殺されるかと思いましたよ。ずっとぼくのズボンを掴んで、「うー、うー」と唸っている(笑)。で、ぼくが走り始めると、かかとを踏んでスパイクを脱がせるんですよ。その踏み方がまた上手なんだ。

  最少の県・鳥取の挑戦

平田 それにしても、今回ガイナーレ鳥取は残念だったね。
岡野 あと一歩でJ2に昇格できませんでした。JFLで5位、J2昇格圏内は4位でしたから。
平田 ぼくがサッカー協会にいる時に、Jのチームをこれからどう増やしていくのかを決めたんだよ。Jリーグ将来構想委員会という組織があって、ぼくが委員長だった。そこで時期は別にしてとりあえずJ2を22チームまで持っていこうと。2010年シーズンにはギラヴァンツ北九州が昇格してJ2は19チームになるわけだけど、ただ、ぼくが思うのは、急いで昇格する必要はない。観客動員などを考えると、むしろ少し焦らしたほうがいいのかもしれない。日本サッカーも、「ドーハ」があったから「ジョホールバル」があった。焦らされたことによって、さらに盛り上がりは大きくなった。だからガイナーレも、もう1年しっかりと地元に根を張らせて、上がってきてほしい。
岡野 盛り上がりと手応えはすごくあるんですよ。観客動員で目指すは3000人以上と言っていたんですが、ぼくがチームに合流した最後のほうでは、4000人超えは普通で、5000人を超える試合もあった。鳥取市の人口は20万人ほどで、県全体でも60万人くらいですから、その中での5000人の動員には意味があると思います。
平田 通産省に入って以来のぼくのひとつの夢がここにあるんだよね。これまでのプロ野球は、都会のチーム同士が対戦して都会の人たちが観る、田舎の人たちはテレビを見ていなさいと、そういう形だった。でもサッカーでは、亀田製菓(アルビレックス新潟のスポンサー)が、世界のトヨタ(名古屋グランパス)と戦って、勝つことができる。ガイナーレの胸スポンサーはどこだっけ?
岡野 「大山黒牛」です。
平田 大山黒牛がトヨタに勝つ可能性があるわけだよ。それがJリーグのいいところ。日本という国家のあり方を考えた時に、こんなに素晴らしいことはないよね。その地方にプロチームの話題があると、たとえばやみくもに大都会に行きたがる若者も変わってくるかもしれない。Jリーグという装置は、日本を根本から変えるかもしれない。鳥取は全国47都道府県の中でいちばん人口が少ない、小さな県。鳥取がJに入ってくれば日本は変わると思う。
岡野 はい、2010年は最初からガンガン行きますよ。ガイナーレの目標はJ2ではありません。その上のJ1です。今回は上がれませんでしたが、もう1年JFLでよく耕して、しっかりと根を張らせて、そして大きな実りを得たいと思います。


(おかの・まさゆき ガイナーレ鳥取/ひらた・たけお 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授)

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