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ラバウル温泉遊撃隊
山崎まゆみ

アジアの各地に、日本兵を癒した温泉がある。その史実に、戦争をまったく知らない世代の温泉ライターが夢中になった。「ラバウル小唄」の響きに導かれて旧軍の足跡を追い、幻の部隊の隊長に巡り会う。兵士たちの想いを胸に、ようやく辿りついたジャングルの奥で見た光景とは? 戦地の昔と今を情熱で結ぶ新感覚ノンフィクション!

ISBN:978-4-10-316431-9 発売日:2009/07/17

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1,470円(定価) 購入

波 2009年8月号より

たぐり寄せた戦場のリアリティー
中村智志


 数年前、中国戦線に出征した人から銃撃を受けたときの話を聞いた。仲間と塹壕に身を沈めて、アメやラムネを頬張り雑談しながら銃声がやむのを待ったのだという。悠長だなと思うと同時に、戦場における現実は、想像力では描けない人間くさい営みにあるのだと気づかされた。
 パプアニューギニア、ラバウルのふたつの温泉に入っていた旧日本兵をめぐるノンフィクション『ラバウル温泉遊撃隊』を読みながら、私は何度も同じ思いにとらわれた。
 たとえば、山形出身の兵士は、二、三人で海辺の湯に浸かりながらボタモチの話をした。「温泉に入浴して、お月様を見ると思い出すんだよ。山形も同じようにお月様が出ているだろうな」。ジャングルではまた、タバコの葉を栽培して紙がなくなるとバナナの枯れ葉で巻いた。「それに、砂糖水を軽く吹きかけると、甘みが出て、渋みが消えて、うまーなるんですわ」。ほかにも、「マラリアになっても温泉に入りたかった」と思ったり、原住民の少年たちから蜥蜴など食べられるものを教わり、反対に足し算を教えたり……。
《日本兵の戦場の生活を丁寧に描かないと、温泉の価値が浮かび上がってこないのだ》
 と記す著者の試みは成功している。しかし、本書の面白さは、こうしたリアリティーにあるだけではない。著者がたどった道のりもまた印象的だ。
「温泉は人を幸せにする場所」と考える温泉ライターの著者は週刊朝日でアジアの温泉紀行を連載中、たまたまマレーシアで、日本兵が温泉の岩壁に自分の名前を書き残していたのを見つけた。それをきっかけに、戦時中、ラバウルの海辺に「花吹温泉」、ジャングルの奥地に「宇奈月温泉」と日本名を冠した湯があったことを知る。そして戦争の知識は乏しいのに、「戦場の温泉」への好奇心に駆られ、入浴した人たちを訪ねようと決心する。ゼロからの出発だから視点が無色透明だ。
 ニューギニア航空の社員や戦友会名簿などから糸をたぐるように捜す。薄皮をはぐように相手の本音に迫ってゆく様子はスリリングですらある。「日の丸しょってるかー」とうなされるほどに没頭してようやく会えたのが、「温泉遊撃隊」隊長の伊神実さんであった。戦地に不似合いな名称だが、宇奈月温泉を発見したジャングル・ゲリラである。温泉は、獣道さえない奥地の川にあった。当時の生活や心境を克明に語った伊神さんは「足がしゃんとしてたら、もう1度行ってみたいわ」と話す。意を受けた著者は、危険地帯にあると言われる宇奈月温泉を目指し、空気が熱を持ち息を吸うと水分も吸い込んでしまうジャングルを進み始めた。それは六十年以上の時を超えて、温泉遊撃隊の体験を共有する歩みでもあった――。
 旧日本兵に叱られたり、ラバウルの古老の日本占領時の苦労話に涙を流したり。著者がアンテナを全開にして向き合う情景が浮かんできた。

(なかむら・さとし 週刊朝日編集部)

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