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キャラクターズ
東浩紀、桜坂洋
主人公=キャラクターとしての批評家・東浩紀。書き手=実在の批評家・東浩紀+ライトノベル作家・桜坂洋。二人に与えられた武器は「キャラクター」という古くて新しい概念。「私」とセックスと死を描く日本文学、その脱構築として。「自然主義的リアリズム」、その文学環境崩壊の中で。主人公・東浩紀は、分裂し、暴走し、そして……。
ISBN:
978-4-10-426202-1
発売日:
2008/05/23
1,365
円(定価)
波 2008年6月号より
すべてが“ネタ”になる
大森 望
『キャラクターズ』が単行本になるので《波》に書評を――と依頼されたときは、とりあわせの妙に思わず笑ってしまい、二つ返事で引き受けたんですが、あらためて考えるとこれは難題。予備知識のない読者に、この奇妙な小説をどう紹介すべきか。批評家の東浩紀とライトノベル作家の桜坂洋が合作したメタフィクション風の活劇? 六十人を越える実在の人名(大塚英志・谷川流・三浦展・佐々木敦・太田克史・笙野頼子・鈴木謙介・前島賢・矢野優・奈須きのこ・北田暁大・ひろゆき……)または当人を登場させ、文壇の真実を剔抉する実名小説? うーん……と悩んでしまうのは、《新潮》〇七年十月号に一挙掲載された本作が、小説である以前にひとつの“現象”というか“事件”というか、最強の“ネタ”だったから。
冗談(ネタ)としか思えない企画が現実化した衝撃は、単行本化に際しても反復される。新潮社から出る新刊の書評が《波》に載るのは当然なのに、ものが『キャラクターズ』だとネタにしか見えない罠。虚構か現実か、冗談か本気かが区別できない問題は、そのまま本書のテーマに重なる。
作中人物の桜坂洋と東浩紀は、二〇〇七年五月、桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』が日本推理作家協会賞を、佐藤友哉『
1000の小説とバックベアード
』が三島由紀夫賞を受賞したことに深く絶望し、ライトノベル(キャラクター小説)が私小説化することで「文学」に回収される退屈さに断固抵抗すべく、「批評のキャラクター小説化」をめざして、“東浩紀”を主人公とした小説の合作にとりかかる。
――という“設定”から、『キャラクターズ』は出発する。文芸誌に代表される文壇のダメさかげんを激しく糾弾する小説が老舗文芸誌の巻頭を飾る皮肉は、直木賞をネタにした筒井康隆『大いなる助走』が《別冊文藝春秋》に連載された故事を思い出させる。一方、伝記的事実としては、桜坂洋はかつて桜庭一樹との合作でお互いが作中人物となる小説『桜色ハミングディスタンス』を書き、同人誌として販売したことがあるし、東浩紀はデビュー当初の佐藤友哉にいちはやく着目し、高く評価していた(しかし、東のデビュー作『存在論的、郵便的』は、一九九九年の三島賞に落選している)。
これらの事実を踏まえると、桜庭・佐藤の受賞を知った二人が「文学」に復讐を企てるという発端は(直木賞をとれなかった筒井康隆が文春に復讐するため『大いなる助走』を書いたという“設定”と同じく)物語的な説得力がある。しかしこれは(筒井康隆の場合と同じく)あくまでもネタ。
そもそも『赤朽葉家…』『1000…』は私小説じゃないし(佐藤友哉は初期の『クリスマス・テロル』とかのほうがよほど私小説的だ)、本書にしても、やっていることは、「批評のキャラクター小説化」ではなく、単に「批評家のキャラクター化」であって、ライトノベル的なテクニック(“萌え”とか)はほぼ封印している。
むしろポイントは、合作という形式をとることで作者とキャラを分離したことか。キャラ化した東浩紀は三人に分裂し、他人(桜坂洋)に操作を委ねることで私小説から(原理的に)逸脱する。同時に、阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』の主人公オヌマが“映写技師”として登場、さらに桜坂洋の持ちキャラの姉原美鎖(ライトノベル『よくわかる現代魔法』の登場人物)も出てきて、帯の名台詞(「文学は魔法も使えないの。不便ねえ」)を吐く。
こうした手法はヴォネガットやキングの小説でもおなじみだが、合作である本書の場合、作者のキャラを動かしているのは別の作者かもしれない。作中では、奇数章を桜坂洋が、偶数章を東浩紀が書き、物語と批評をそれぞれ役割分担する体裁になっているが、実際どうなのかはわからない。純文学業界では、アウトサイダーである桜坂洋の存在が透明化され、あたかも東浩紀の分身のような扱いを受けているが、ライトノベル的に言えば、桜坂洋が東浩紀を利用して、長く中断していた『現代魔法』シリーズのスピンオフ作品を《新潮》に載せる快挙をなしとげ、その単行本化に合わせて『現代魔法』のnew edition(スーパーダッシュ文庫)を出したという見方もできる。そう思うと、桜坂らしき眼鏡男が東らしき帽子男を操っているかのような本書カバー画(デリダ『絵葉書』原書カバーのプラトンとソクラテスが下敷きだとか)もなかなか含蓄が深い。
(おおもり・のぞみ 翻訳家)
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