新潮新書


社長、その服装では説得力ゼロです
中村のん

人は意外なほど、自分の姿が見えていない。お客に向かってトレンドを語る部長は、時代遅れのジャケット姿。勘違いした「勝負服」で、パワーを半減させている上司。しなやかな黒髪を捨て、パサパサの茶髪になりたがる若者たち――。第一線のスタイリストが、大人の身だしなみの常識、非常識に切り込む。すり寄るショップ店員への対処法、全身姿見の効用、靴を買うときの心得は。「似合う」の仕組みから分かる一冊。

ISBN:978-4-10-610331-5 発売日:2009/09/17

編集者のことば 立ち読み 書評

714円(定価) 購入

波 2009年10月号より

「服装」があなたを映し出す
中村のん


「会社の女性の格好が、ホント、ストレスなんです。四十代だっていうのに、大事な商談の時はいつでも、背中に大きなピーナッツの絵がついた真っ赤なTシャツ。それを着ると仕事が取れるジンクスつきらしいんですが、こっちは憂鬱で」
 不動産関係の会社に勤める男性が大真面目にこう言うのを聞いたのを皮切りに、「上司の服装を嘆く部下の声」が、次々と集まってきたことがありました。と同時に、上司の立場にいる人たちからも「部下の服装への嘆き」が聞こえてきます。
 職場のストレスの大部分が人間関係にあることはよく知られていますが、その大本が相手の服装にある、ということは想像以上に多いようです。
 自分の見た目のうち、顔や体型は基本的には天からの授かり物です。けれど服装は、まぎれもなく本人自身が選んだもの。周りの人が無意識のうちにも服装から「人となり」を読み取るのは自然なことと言えるでしょう。「あんな格好の人から言われても」なんてこっそり噂されるうちはいいですが、責任ある立場の人ともなると、その常識や実力にまで疑問符がつくことになりかねません。
 にもかかわらず、「服には無頓着だから」あるいは「仕事が忙しいから」を理由に、自分の格好をおざなりにしている人は結構いるものです。
 私は長年に亘ってスタイリストとして仕事をしてきました。その立場から言うと、人と服装との関係がこう複雑になっているのには幾つか理由があります。一九七〇年代以降、「服装」という言葉が「ファッション」という言葉にとって代わったことによって、流行を取り入れるのが得意な人と苦手な人、おしゃれそのものに関心が高い人と無関心な人という差がどんどん広がってきました。また、流行り廃りが加速度を増せば増すほど、さらには、近年のブランドブームに伴って、おしゃれにはお金がかかる、という印象が強まるほど、そこから距離を置きたいと思う人が出てくるのも致し方ないことでしょう。加えて、格好で「自分らしさ」を出そうとする風潮がどこか高まりすぎて、冒頭の例のように、周囲を当惑させるまでになってきているようです。
 そこで、服装を「ファッション」という枠からいったんはずし、「人を印象づけるためのツールのひとつ」と捉え直すことによって何が見えてくるかを考えたのが本書です。すると、「ダサイ格好がオトク」という人もいれば、高い服がかえってソンになることがあるという興味深い事実も見えてきました。また、服装にまつわる悩みやエピソードを盛り込みながら、「似合う」の仕組みから靴を買うときの心得、しつこいショップ店員への対処法、太めの人の見た目作りまで、年代や男女の別なく役立つアイデアをご紹介しています。
 生まれてから死ぬまであなたと共にある、そして身体の一部ともいえる服装について、新しい季節の始まりに見直してみてはいかがでしょうか。

(なかむら・のん スタイリスト)


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