新潮新書

編集者のことば 著者はもちろん、担当者にとっても手がけた本は我が子のように思えるものです。親バカだと思われるでしょうが、編集者の一冊の本にかける思いを読んでやってください。

不死の病

死の壁

養老孟司

 新潮新書は、通常、発売の三カ月前には原稿を入稿することになっています。さらに発売の一カ月前には、校了になってしまいます。要するに、雑誌のように、発売数日前の情報を盛り込むということは、出来ません。
 それでも、本に書かれていることが驚くほど、その後に報じられるニュースと関連しているように感じることがあります。
『死の壁』の発売の少し前に、イラクで日本人が拉致されるという事件が起きました。拉致された方々のイラク入りの動機や現地での行動については、様々な意見、批判が出ていたので、ここでは触れません。ただ、『死の壁』のなかのこんな一節を思い出しました。

「人は自分のことを死なないと勘違いするようになりました。そんなことはない、と仰るかもしれません。(中略)人間が死ぬということが知識としてはわかっていても、実際にはわかっていないのです。」
 これは第二章「不死の病」の冒頭の文章です。
「彼ら」にぴったり当てはまるでしょう、といって嘲笑したいわけではありません。自分自身のことを考えても、ぴったり当てはまるなあ、と思うのです。
 私は「死」どころか身体のこともきちんと考えていないような気がします。健康診断の結果が来たときにだけ、殊勝な気持ちになっているような気がします。
『死の壁』は、そんなふうに多くの現代人がついつい、目を向けないようにしている「死」というテーマをさまざまな角度から考えている本です。暗い話みたいに思われるかもしれませんが、そんなことはありません。『バカの壁』同様、養老さんの語り口はどこかユーモラスで、決して深刻ではありません。
 そして読み終わると、きっと少し気が楽になっているはずです。

2004年4月刊より

2004/04
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