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新潮新書

編集者のことば 著者はもちろん、担当者にとっても手がけた本は我が子のように思えるものです。親バカだと思われるでしょうが、編集者の一冊の本にかける思いを読んでやってください。

20年前への時間旅行

1985年

吉崎達彦

「1985年」という新書を作るに際し、85〜86年頃の『フォーカス』(そう、当時はあったんです、この雑誌)を見たら参考になるかと思い、新潮社の資料室にこもって読んだことがあります。もちろん必要があっての仕事なのですが、最初から最後まで「へぇ〜」の連続で、仕事であることを忘れてしまいました。
 なにしろ誌面では、小佐野賢治と岸信介が笑いあってるわ、腹の出た江夏豊が大リーグに挑戦してるわ、本田宗一郎がF1カーを前に昭和天皇に説教たれてる(ように見える)わで、昭和の臭いが強烈に感じられるのです。藤圭子の暗かった人生について書かれた記事には「家には三歳の女の子がいる」なんて書かれているし(女の子はもちろん宇多田ヒカル)、初対局に臨む天才中学生・羽生善治クンの髪の毛はやっぱりはねてるし、松島トモ子はライオンとヒョウに食われています(あんまり時代とは関係ないですか)。

 東宝の某女優が脱いだことを記した記事の「独身女性はクリスマスケーキ」とか、「ボケ老人保険発売」を伝える記事の「昭和85年には若者3人で老人1人の面倒を見る」などの表現にも、強烈に時代が感じられます。ちなみに広告を飾るのは誕生したばかりのNTTの「カエルコール」や、NECが売り出した「PC-9801」640Kバイト29万8千円など。その死が記事になっているのは夏目雅子と白洲次郎の二人でした。
 二十年前というのは、過去とも言い切れないし現在とも言えない、妙に愛惜を誘う時代です。当時高校生だった担当者にしてそうですから、いま四十代、五十代の方にとってはなおさらそうでしょう。この本の編集は、時として仕事であることを忘れさせてくれるような楽しい経験でした。
 とまれ、このようなネタをたっぷりと収集し、ふるいにかけてできあがったのが『1985年』という本なのです。斎藤孝さんが最近、「あの頃力」なることを言っておられますが、この本を読めば「あの頃力」が大いに鍛えられることと思います。出来るだけ多くの人に、この本を手に二十年前への時間旅行を楽しんで頂きたい──担当者としては、そう願っております。

2005年8月刊より

2005/08
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