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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

「時間」との戦い

 すでにあちこちに書きましたのでご存知かもしれませんが、新潮新書の編集部員八人は様々なセクションから集まっており、雑誌出身者が多数を占めています。私自身、月刊誌の経験が長かったものですから、発想もスキルもきわめて月刊誌的です。
 もともと私は「新書は雑誌と本の中間のメディアだ」という認識でした。まあ、それは今でも基本的には変わっていないのですが、いざ取りかかってみると、「作るのにかかる時間」と「賞味期限」の違いにかなりとまどい、もどかしさを感じました。

 毎月数点出していく以上、時宜にかなったテーマのものも入れていかなければなりません(でなければ定期的に出版する意味がないですから)。その意味では雑誌的な作り方が必要なのですが、一冊を作り上げるには入稿から出版までは通常で三カ月、執筆をお願いしてから本が書店に並ぶまでには半年、一年はかかることになります。加えて、雑誌のように次の号が出るまでの命というわけにはいかない。あくまで「本」ですから、少なくとも数年は読み継がれるだけの内容が求められます。
 つまり、本と雑誌の中間のメディアである、と言えば聞こえはいいですけれども、実のところはあくまで「本」の枠内であって、その限界の中でどれだけ雑誌的なつくりができるかが問われているわけです。もちろんタイムリーさといっても、誰も新書に速報性などは求めないでしょう。要は時代の大きな流れを読むためのヒントになるような、「深い考察」と「整理された情報」を、最も必要とされるタイミングで出すということです。しかし、それを本の枠内でやることがいかに難しいか……。創刊前後の数カ月は、そのことを痛感する日々でした。

 例えば、創刊ラインナップの中で言えば、吉崎達彦氏の『アメリカの論理』。年末に執筆をお願いし、吉崎氏はほぼ一カ月で書き上げて下さいました。内容も、その時点でアメリカのネオコンのロジックが手に取るようにわかる素晴らしいものでした。ところが、困ったことに、実際の世の中の動きがどんどん追いついてくるわけです。私は「緊急出版したい!」と思ったくらいですが、創刊もしてないうちに出すわけにはいきません。そもそも、二月初旬の入稿だと、四月発売になんとか間に合うというギリギリの線だったのです。
 同じようなケースは今月の二十一日に発売する第二弾ラインナップの中にもあります。一つは田中弘氏の『時価会計不況』。田中氏が年来の主張を大胆に展開した渾身の作品で、これをお願いしたのは昨年初秋のことでした。二月下旬に入稿しましたから、現実には五月にしか間に合わないのですが、四月に入ってから自民党を中心に「時価会計見直し論」がホットなテーマとして急浮上してきました。こちらは「盲点を指摘する」つもりで企画しているのに、これまたいつの間にか時代の流れが追いついてきたのです。「ああ、今すぐ読んで欲しい」と思いながら、今は二十一日の発売日に向けて、弓を引き絞っているという感じです。
 もう一つ、『アメリカ病』は、アメリカ在住経験の長いジャーナリストの矢部武氏が、「今のアメリカは明らかにおかしい」という思いから、米国社会に蔓延する過剰さ、異常さをあぶり出した力作レポートです。これまた執筆依頼は昨年秋。編集部としては、イラク戦争報道が一息ついたところで、左フックのような感じで意外な線から繰り出したいと思っていたのですが、この一カ月のもどかしさたるや……。

 新書で時宜にかなったものを出そうというのは、「見えない未来」と「追いついてくる時代」との戦いであり、「時間」との戦いなのです。
 そんなわけで、今日も編集会議では、「ああ、これを早く出したいなあ」と嘆く私が、「そんなの無理ですよ。バカなこと言わないでください」と編集部員からたしなめられるという光景が繰り返されているのです。

2003/05
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