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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

タイミングの話

 溝口敦さんの『暴力団』を刊行したのは2011年9月のことでした。この分野の第一人者に、暴力団に関する素朴な疑問に答えていただく、というコンセプトのこの本は、ベストセラーになりました。中味が面白かったことはもちろんですが、刊行直前に島田紳助さんが「黒い交際」を理由に引退したことで、暴力団への注目度が高まっていたことも、売れ行きを伸ばす要因になったと思います。

 その溝口さんの新刊が『薬物とセックス』。薬物に関する基礎情報からディープ情報まで、詰め込んだ1冊です。
 この本が12月刊行と決まったのは今年の夏でした。編集部では「また誰か、発売前に捕まったりしてね」などと話していたのですが、本当に有名人が捕まってしまったので驚いてしまいました。ASKAさんについては、特に詳細な記述があっただけに、なおさらです。
 なぜ彼らはやめられないのか。実際にクスリをやるとヒトはどうなるのか。新聞やテレビでは扱いづらい情報も満載です。念のために申し上げておけば、薬物を推奨する本ではありません。読むと、「絶対にやめておこう」と思うはずです。

 他の新刊3冊もご紹介します。

ザ・殺し文句』(川上徹也・著)は、カリスマ経営者、プロ野球監督、政治家らの「殺し文句」を徹底的に解剖し、いつの間にか読者もその使い手となれる、という内容。「なぜあの時、もっとうまいこと言えなかったのか......」という思いをしたことが1度でもある方には強くお勧めします。
お寺さん崩壊』(水月昭道・著)は、お坊さん自身が、現在のお寺の経済事情を「ぶっちゃけ」た1冊です。「坊主丸儲け」などというのは昔、もしくはごくごく一部の特権階級の話。『高学歴ワーキングプア』という著作もある著者は、「ワーキングプア僧侶」でもあります。檀家の方々は、菩提寺の行く末が心配になるかもしれません。
気づいたら先頭に立っていた日本経済』(吉崎達彦・著)は、年末年始にうってつけの本かもしれません。何となく明るい気持ちになるからです。ギャンブルを愛し、日本各地を巡っているエコノミストの著者の軽妙な文章を読むうちに、日本も意外と大丈夫かも......という気持ちになってくるのです。

 今年も1年間、無事に出し続けることができました。
 これも皆様のおかげです。
 来年もタイムリーな企画を出していきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
2016/12