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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

際立った方々の話

 この仕事の面白いところの一つは、各界の際立った方々にお目にかかる機会を得られることです。しかもありがたいことに、記者の頃は、悪い方面で際立った方に会うこともありましたが、今は良い方面の方がほとんどなのです。
 経済学者の宇沢弘文先生のお宅に、担当編集者とお邪魔していたのはもう何年も前のこと。宇沢先生は日本人初のノーベル経済学賞候補者とも言われた方で、2014年に86歳で他界されました。
「いいものがあるんだよ」
 ご自宅のリビングでお話を伺いはじめて、少し経つとそう仰って先生は席を立ちました。そして、戻ってこられる時には片手に焼酎のボトル。「いいもの」とは焼酎のことなのです。
 まだ昼間なのですが、薦められればやぶさかではありません。
 世界的な経済学者の自宅で、昼間から焼酎を飲んでいる。とても不思議な経験でした。

 4月新刊の『人間の経済』(宇沢弘文・著)は、その時にお話ししてくださったことや、残された講演録などをご遺族のご協力のもと、編集部でまとめたものです。経済成長よりも人間の幸福を追求すべきだ、という宇沢先生の思想の入門書として最適のものとなっています。

 他の新刊4点もご紹介します。

検索禁止』(長江俊和・著)は、テレビ番組の「放送禁止」シリーズや、小説『出版禁止』『掲載禁止』等、目下、恐怖をテーマにしたら天下一品の腕前と評判の著者による初のノンフィクション。これまでに直接経験したり、取材をしたりした「怖い話」を惜しげもなく披露しています。内輪の会議では、怖い話が苦手、という人たちからは「最後まで読めなかった」という声があがり、一方で怖い話が大好き、という人たちからは「最後まで本当に面白かった」という声があがりました。私は後者なので、圧倒的に楽しめました。
日本列島創生論―地方は国家の希望なり―』(石破茂・著)は、著者初といっていい、構えの大きな日本論かつ、政策提言の本です。「防衛通」もしくは「軍事オタク」といったイメージの強い石破氏が、初代の地方創生担当大臣に就任したのは2014年のこと。その時に得た知見を中心に、「地方も中央も、与党も野党も、官も民も、若者も高齢者も納得できる、アベノミクスの先の処方箋」を示します。自民党幹事長時代も含めて、とにかく全国を飛び回ってきただけあって、エピソードも豊富。政治家の本としては異例なほど、楽しめる内容になっています。
コスパ飯』(成毛眞・著)は、コストパフォーマンスのよい食を追求する著者の美食遍歴及び料理実践の記録。成毛さんほどの方になると、すごく高級で美味しい店を回っているように思われがちですが、そんなことはまったくありません。外で食事する主な目的は、家で美味しいものを再現するため、というだけあって、すぐに役立つようなウンチクが満載です。
ヤセないのは脳のせい』(茂木健一郎・著)は、なんと驚いたことに茂木さん初の「ダイエット本」です。「えっ? どの口で??」という反応は織り込み済み。茂木さんならではの切り口で、ダイエットの功罪から効能まで一気に語ります。

 この4月で新潮新書は創刊14周年を迎えました。これも読者の方のおかげです。
 ありがとうございます。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。
2017/04