新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

読者層の話

 著者の方とお話をしていて、ときおり驚かれるのが、新書の読者層についてお伝えしたときです。厳密な分析は存在していませんが、書店での購買層等を見ていると、大体現在、新書の中心読者層は30代~70代、あるいは40代~80代くらいではないか、と推察されます。
 一昔前までは、新書は大学生が読むもの、というイメージが結構ありました。安価で、分厚い専門書よりも間口が広いからです。そのイメージが強い方ほど現状を知って、驚かれるのです。
 しかし、残念ながら現在、大学生はコアな読者層ではありません。入社面接に来てくださる学生さんとお話していても、ひしひしと感じます。
 それを聞いて「若い奴はスマホばかりで本を読まん」と嘆くことも可能なのでしょう。でも、私はあまりそういう風には思っていません。
 自分自身が、大学時代にあまり勉強しなかったこともあるので、若者にそれを強いるのは図々しいという気持ちもあるのですが、それ以上に、中高年になっても新書で新しい知識を取り入れようという方が大勢いることに、希望を感じるからです。
 あくまでも個人的な見解ですが、高齢者となったあとに「死ぬまでセックス」という記事を真剣に読むよりは、新書で知らないことを知ろうという姿勢でありたいと思います。「死ぬまで~」のほうにも興味があるとしても(おそらくある)、ちょっと人目を忍んで読みたいと思います。

 9月の新刊4点も、新しいことを知りたいという方にお勧めできるものばかりです。

投資なんか、おやめなさい』(荻原博子・著)は、「お金のことはどうも苦手で」と思いながらも、「老後を考えたら財テクもしなきゃいけないんだろうなあ」と考えている方にお勧めです......というか、そういう方は必ず目を通したほうがいい本です。そうしないと、カモにされます。荻原さんは、銀行や証券会社等に猛抗議されるかもしれないが、それでもこの内容を伝えなければならない、という強い気持ちで執筆してくださいました。

能―650年続いた仕掛けとは―』(安田登・著)は、タイトル通り、あの「能」の入門書です。見るだけで眠くなりそう、などと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そういう方でもこの本を読めば、一度くらいは能を見てみようという気になるはずです。読む前の私も「眠くなりそう」派だったので間違いありません。

こうして歴史問題は捏造される』(有馬哲夫・著)は、中国や韓国と繰り返される、不毛な歴史論議にウンザリしている方は必読です。右でも左でもない立場から著者は、歴史研究の作法、そして中韓との間の「歴史問題」のメカニズムをわかりやすく解説しています。これを読んだあとは、一つ上のステージから不毛な論議を俯瞰できるはずです。

女系図でみる驚きの日本史』(大塚ひかり・著)は、著者の「系図愛」がすごい1冊。昔から様々な系図をつくるのが趣味だったという大塚さんは、「誰が生んだか」に重点を置いた系図を多数作ってきました。すると、滅亡したようなイメージのある平家が今の天皇陛下にまでつながっていることなど、意外な事実が明らかになったのです。系図好き、日本史好きには堪えられないはずです。

 もちろん、大学生あるいは高校生が読んでも有益な本ばかりです。
 今月も新潮新書をよろしくお願い申し上げます。
2017/09