新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

マサカの話

 まさかこんな本が出るのか、と最近驚かされたのは『XTC コンプリケイテッド・ゲーム アンディ・パートリッジの創作遊戯』(DU BOOKS)でした。70年代から活動しているXTCというバンド(現在はずっと休止中)の中心人物が、これまでの作品から何曲かをピックアップし、自ら解説するという500頁近い翻訳書です。ある程度ロックが好きな人にはそれなりに知られているバンドとはいえ、大きなヒット曲はありません。道行く人に聞いてもおそらく誰も知らないものばかり。
 熱心なファンにはとても嬉しい本だけれども、そもそもその人数がどれくらいいるかは謎。それだけに「まさか」と思ったわけです。

 3月末に『素顔の西郷隆盛』(磯田道史・著)が変則的に刊行されたので、4月の新刊は3点になります。
 そのうちの1冊は、『マサカの時代』(五木寛之・著)。「これからはあらゆる予測がはずれる時代になる」というのがタイトルの由来です。
 実際、このところも次々「マサカ」というようなことが起きているのは言うまでもないでしょう。米朝首脳会談、財務省の文書改竄等々――この「マサカの時代」を生き抜くにはどのような心構えが必要か。五木さんの話にぜひ耳を傾けてみてください。
神武天皇vs.卑弥呼―ヤマト建国を推理する―』(関裕二・著)は、本の中味が「マサカ!」の連続。文明が中国から朝鮮半島を経由して伝わってきて......といった従来の説とはまったく異なる日本古代史が語られていきます。こんな『日本書紀』の読み方があったのか、と驚く方も多いのではないでしょうか。
人を見る目』(保阪正康・著)は、昭和史研究の第一人者による人間学。戦時中、東條英機の周りにには「納豆」と陰口を叩かれる人が集まったそうです。権力者である東條にベタベタとおもねる様をそのように評したとか。
 人間の本性というのは、そう変わらないものだということがしみじみとわかる1冊です。

 近頃、新潮新書に限らず新書ではミリオンセラーが生れていません。そろそろマサカのヒットが出て欲しいと心から思っています。

 今年度も新潮新書をよろしくお願いいたします。

2018/04