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特集【時代小説 秋祭り】宇江佐真理/諸田玲子/伊東 潤/矢野 隆/辻井南青紀/梶 よう子

小説新潮 2012年10月号

(毎月22日発売)

特別定価1,047円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2012/09/22

発売日 2012/09/22
JANコード 4910047011029
定価 特別定価1,047円(税込)

特集【時代小説 秋祭り】

 秋、と聞いて思い浮かぶものはそれこそ無限にあるだろうが、文字ベースで考えた場合、もっとも多く連想されるのは、「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」という、正岡子規の俳句ではないだろうか。明治二十八年に詠まれたというこの句は、以来、秋を代表する作品として日本人の意識に馴染んできた。
 しかしこの句、秋を思わせるのは、「柿」という単語だけである。それだけで我々は、高く遥かな秋空や、木々の紅葉さえも想像し、脳裏に一枚の風景画を完成させる。それは、誰に教わったでもなく、自然と身に刻まれた風景なのだろう。
 日本には、こうして無意識のうちに染み込んでいる光景や思考が多いような気がする。時代小説という、実際には目にしたことのない世界での物語に懐かしさと安堵を覚えるのは、この知らず身に付いた日本人的感覚が刺激されるからではないだろうか。

◆宇江佐真理/こぎん 古手屋喜十 為事覚え
――厄介ごとを持ち込まれ渋面の喜十。見慣れぬ縫い取りを手がかりに…

◆諸田玲子/蝸牛 お鳥見女房
――石塚家に難問が。某旗本家が多門を養子に欲しいと言い出したのだ

◆伊東 潤/城を一つ
――恃みとするのは、わが身だけ――奇想天外な江戸城攻略法とは?

◆矢野 隆/出会いと別れ
――行方不明の藤兵衛を探し回る凛に、十三郎の苛立ちは募るばかり

◆辻井南青紀/お家断絶願い 結婚奉行 手控え帖
――息子を失くし噛み合わない老夫婦。何気ない妻の言葉に対し、夫は

◆梶 よう子/我が待つ君 みとや・お瑛仕入帖
――一枚だけ違う和歌が記された五枚の小皿。いわくが気になったお瑛は

【新連載】
◆仙川 環/マテリアル・ライフ
――国内二例目の赤ちゃんポストが、記者・友美の生活を一変させる

◆酒井順子/地震と独身
――あの日以来、シングルライフは変わったの? それとも――

【連載第二回】
◆杉山隆男/メイのいない五月
――私たち夫婦は、飼い犬のおかげで、かろうじてつながっていた

【充実の好評読み切り】
◆大崎 梢/青空に広がる ふたつめの庭 最終話
――隆平に想いを打ち明けた矢先、一人出歩く園児を見かけた美南は

◆篠田節子/ファーストレディ
――一見華やかで多忙な「ファーストレディ」の敵は、病気の母……?

◆千早 茜/うろこ
――傷つけたくなくて彼女を拒んだ。でも本当は自分が傷つきたくなくて

◆帚木蓬生/彦山ガラガラ
――高齢者に幸せな老後を――。私の願いは親不孝の罪滅ぼしでもあった

【好評連載小説】
赤川次郎/月光の誘惑
飯嶋和一/星夜航行
熊谷達也/海峡の絆
近藤史恵/キアズマ 最終回
今野 敏/宰領 隠蔽捜査5
佐々木 譲/獅子の城塞
柴田よしき/底のないポケットIV 名前のない古道具屋の夜
白川 道/神様が降りてくる
新城カズマ/島津戦記
西村京太郎/十津川警部 新宮に徐福伝説の謎を追う
野中 柊/波止場にて
はらだみずき/ここからはじまる
藤田宜永/風屋敷の告白 還暦探偵
誉田哲也/ドンナ ビアンカ
真山 仁/沈黙の代償 最終回
向田邦子 原作 烏兎沼佳代 構成/続・寺内貫太郎一家
山本一力/べんけい飛脚

【連載エッセイ】
北村 薫/うた合わせ
柴門ふみ/大人の恋力
佐藤 優/落日の帝国 プラハの憂鬱
高山なおみ/今日もいち日、ぶじ日記
中野 翠/いちまき ある家老の娘の物語
ペリー荻野/ちょんまげ ザ・バトル
宮城谷昌光/随想 春夏秋冬
山田詠美/熱血ポンちゃんから騒ぎ

第十一回「小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞」決定発表
次号予告/編集後記

編集長から

読書の秋2012
 こういう仕事をしているので、秋と言えば、まず「読書の秋」が思い浮かぶ。春夏秋冬読書していただけるのが一番嬉しいけれども、普段あまり本を読まない人が、せっかく読書の秋なのだから、と活字を手にとってくれるのも、非常に嬉しい。
 電車の中で本を読む人が減り、漫画雑誌を開いている人ばかりになった、と言われたのは既に一昔前。今は大抵の人が携帯電話をいじっている。何をしているのかと言うと、メールの遣り取りやウェブサイトの閲覧で、殆どは何らかの形で文字を見ている。つまり、活字に親しむ素地はあるわけで、後はどう物語に触れてもらうか、なのではないかと考えたりもする。
 携帯やタブレットの画面を見る習慣はそのままに、電子書籍の普及によって、読む物が小説にまで広がってくれればいい。そしてそれは、すぐ目の前に来ている。今年は、新しい形での「読書の秋」を試してみてはいかがだろうか。


小説新潮編集長 新井久幸

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 小説新潮は戦後まもない一九四七年に創刊されました。以来、文学史に名をとどめる作家で、小説新潮に登場したことのない名前を探すほうが困難なほど、数多の文豪、巨匠、新進気鋭による名作、名シリーズが誌面を飾ってきました。

 時代は変わり、新しい作家、若い書き手も次々に現れます。変わらないのは「小説を読む楽しみ」を大切にすること。現代小説、時代小説、ミステリー、恋愛、官能……。ジャンルにこだわらず、クオリティの高い、心を揺り動かされる小説を掲載していきます。

 小説と並ぶ両輪が、エッセイと豊富な読物です。小説新潮では、毎号、ボリュームのある情報特集や作家特集を用意しています。読み応えは新書一冊分。誰かに教えたくなる情報が、きっとあります。

 目指すのは、大人の小説、大人の愉しみが、ぎっしり詰まった雑誌です。経験を重ね、人生の陰翳を知る読者だからこそ楽しめる小説、今だからこそ必要とされる情報を、ぎっしり詰め込んでいきたい。

 言葉を換えれば、「もうひとつの人生を体験する小説誌」。時には主人公たちの息遣いに寄り添い、またある時には人生の新たな側面を見つけるささやかなヒントになれば――そう願っています。
 ほんの少しかもしれませんが、小説新潮で毎月の生活がきっと変わるはずです。

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